アーティストとコレクターが語る「LUMINE ART FAIR」の魅力とアートが伴走する生活。飯沼英樹✕小池博史

日常の中の非日常としてアートを楽しむことを提案してきたルミネ。そんなルミネが提案する「LUMINE ART FAIR- My 1_st Collection Vol.2-」(11月4日、5日)の開催を前に、アーティストがアートに込める思いや、アートとともにある日常の魅力などを、同フェア出展作家の飯沼英樹とコレクター・小池博史に聞いた。

聞き手・構成=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長) 撮影=手塚なつめ

飯沼英樹のアトリエにて、左から飯沼英樹、小池博史

アーティストと出会う楽しみ

──まずは飯沼さん、小池さんのおふたりの出会いをお聞かせいただけますでしょうか。

小池博史 私が審査員を務めた「LUMINE meets ART AWARD 2015」で、グランプリを受賞したのが飯沼さんでした。私は社会課題をデザインの力で解決していく会社を立ち上げ、20年以上にわたり社会においてデザインに何ができるのかを考え続けてきました。アートを専門的に学んだり職業としているわけではありませんが、ルミネさんに呼んでいただいたきっかけも、そういったつくり手と社会をつなぐ仕事ということが大きかったのでしょう。

左から飯沼英樹、小池博史

 だからでしょうか。飯沼さんの作品を見たときに、ルミネという商業施設に馴染みながらも、その作品のなかに社会を見つめる視点が宿っているところにとても惹かれました。木彫の質感も魅力的でしたし、モチーフとなった人々のファッションも現代を映し出していると感じられたんです。

飯沼英樹 「LUMINE meets ART AWARD」はノミネートされた作家と審査員の懇親会があり、そこが小池さんと直接お話しする機会となりました。その後、小池さんは作品を購入してくださり、さらにアトリエにも何度か来訪していただき、以来親しくさせてもらっています。

飯沼英樹の「LUMINE meets ART AWARD」での受賞作品展示

飯沼英樹が作品に込めるもの

──飯沼さんは一貫して人物をモチーフとした木彫作品をつくり続けていますが、小池さんが飯沼さんの作品に感じた、人物のファッションなどを木彫に取り入れることで現代を写し取るという作家性はどのように培われたのでしょうか。

飯沼 美術大学時代から周囲にファッションが好きな人間が多かったのですが、大きな影響を受けたのはフランスに留学しているときでしょうか。当時のフランスにはファッションがあまりにも好きで渡仏してしまった日本人たちがたくさんいて、自分も彼らと交流するようになりました。より深く学ぶためにイタリアでファッションデザインも学び、限られた枠組みのなかでいかに自分を表現できるのか、ということを学んだ経験は、作品にも生かされていると思います。小池さんが私の作品に現代を生きる人々の姿を見出してくださったのもその経験のおかげかもしれません。

小池 まさに、私が飯沼さんの作品に魅力を感じるのはそういうところだと思います。ファッション関係のブランドと仕事をする機会も多いのですが、ファッションというのは消費のスピードがとても早いですし、デザインに関しても毎シーズン異なるアプローチが次々と試されていく。飯沼さんの作品は、そういった瞬間を封じ込め、留めているような印象を受けるんです。自宅に飾っていてもいまだに飽きないですし、ずっと見ていられますね。

飯沼英樹のアトリエにて、左から飯沼英樹、小池博史

──小池さんが飯沼さんの作品をどのように飾っているのか、詳しく教えてもらえますか。

小池 飯沼さんの作品は2点を購入させてもらっています。スペース的にあまり大きなものは難しかったのですが、リビングの棚の上に飾ることができるサイズのものを購入させてもらいました。女性が折りたたみ式の携帯電話を持って話している作品などは、時代がそのまま写し取られているような感じがします。本当に生活の中に作品が溶け込んでいて、意識せずともすぐそばにいる存在になっていますね。

飯沼 嬉しいですね。小池さんを始め、コレクターさんから作品をどのように飾っているのか、写真などが送られてくることも多く、励みになります。制作するときは目の前の作品に集中しているので、どういったかたちで自作を楽しんでもらうのかはほとんど考えないのですが、購入したコレクターさんの生の声を聞けると次の作品をつくるモチベーションにつながっていきますね。

小池博史の自宅での展示風景

──制作について飯沼さんにもう少しお話をうかがえればと思います。木と向き合って立体を削り進めていくときなど、大変な集中を要されると思いますが、制作中、どういったことを思考しているのでしょうか。

飯沼 私の実家は長野県の松本市で、身の回りに木々が多く、また生活においても風呂を沸かすために薪を割ったりと、木は幼いころから身近な素材でした。美術大学に入って本格的に木彫に触れましたが、それ以前から木に触れてきたことは事実です。だからかもしれませんが、こんな木材を使ってみたいとか、たまたま出会えたこの木材にチャレンジしてみようとか、材質に対してのインスピレーションから制作を始めることが多いですね。

 木を削っているときは制作に没頭しているので特別な思考をしているという意識はありませんが、瞬間の細かい判断の積み重ねが結果的に作品になっているんだと思います。それぞれの判断の瞬間に嘘がないようにしたいと思っていますし、そこに嘘があると、例えばコレクターさんが作品を買って飾ったときに座りの悪さが出てきてしまうと思います。

小池 立体の作品を家に飾るときの楽しみは、色々な角度から見られるということですよね。実際に飯沼さんの作品を自宅に置いてみると、見るたびに発見がある。それはいまおっしゃったような、瞬間の嘘のなさが生み出しているということなんでしょう。

飯沼英樹のアトリエにて

作品は生活に伴走する

──今回開催される「LUMINE ART FAIR」にも飯沼さんは新作を準備中だとか。

飯沼 色々と試している段階ですね。アートフェアに作品を出すときは色々と考えます。スペースを全部自分でつくる展覧会とは違って、限られた場所でいかにプレゼンテーションできるかを考えることになりますから。自分という作家を知ってもらうためにある程度シリーズをまとめて作品を出すべきなのか、それともインパクトのある作品数点で勝負するのか。迷うところも多いですね。

小池 そういった作家一人ひとりの工夫を見に行くのもアートフェアの楽しみのひとつですよね。私のようにまずは気軽に訪れてみて、色々な作家さんの表現を目にして、気に入ったものを見つけてもらえればと思います。

飯沼 そのなかで、自分の生活に伴走してくれる作品と出会ってもらえたら嬉しいですね。

飯沼英樹のアトリエにて、左から小池博史、飯沼英樹

──最後に、飯沼さんにとって作品をつくり、それが人の手に渡るとはどういうことなのでしょうか。

飯沼 最近ようやく言語化できるようになってきたのですが、昔から自分にとって何かをつくるということは、セルフケアに近いものがあったんです。世の中、生きづらいことも多いわけですが、制作という自分の世界に入り込める場所があると、癒やされるし自分らしさを回復できるんですよね。願わくば、そういった体験が、つくっている私だけじゃなくて、それを手にして飾ってくれる人々にも共有できれば嬉しいですね。

小池 たしかに、作品と一緒に生活するということは、そういう意味合いもあるかもしれません。

飯沼 普段は意識しなくても、生活を伴走してくれる相手として、作品を生活のなかで楽しんでもらえると嬉しいですね。「LUMINE ART FAIR」は多くの人に開かれたアートフェアなので、ぜひそういった作品を見つけてもらえればと思います。

飯沼英樹のアトリエにて

編集部

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