既存の華道流派に属することなく、独自の花の表現を追求した孤高のいけばな作家・中川幸夫(1918〜2012)。花が生きて死ぬまでの姿を見つめ、その命のありようを生けた中川の作品や制作態度は、ジャンルを超えて多くの作家たちに影響を与えている。
石川県能登島ガラス美術館で開催中の特別展「生けるガラス―中川幸夫の花器」は、中川がいけばなのために制作したガラス作品を、いけばなの写真とともに展示することで、その表現を「ガラス」という切り口で紹介する展覧会だ。
1951年、38歳の中川はそれまで所属していた華道家元・池坊に脱退宣言を突きつけ、その後は生涯にわたって独自の花の表現を追求した。代表作《花坊主》(1973)は、赤いカーネーション900本の花弁を女性の下半身のような形をしたガラス器に詰めて腐乱させ、それを逆さまにして染み出した花液を和紙に染み込ませたものだ。花が悲鳴を上げ、血を流しているような作品は、花の命を最後まで見届ける中川のいけばなの姿勢を端的に表していると言われている。
中川はガラスを単なる花器としてではなく、花と等価の素材としていけばなで表現するために、自作のガラス器を数多く残した。中川がデザイン画を描き、職人の横についてコミュニケーションを取りながら制作されたガラス器の数々は、変幻自在なガラスの流動性を活かし、それ自体が生物か身体器官であるかのような有機的な形態を持っている。
これまであまり注目されることがなかった中川のガラス器を展示の中心に据えた、ガラス専門美術館ならではの展示。中川のガラス素材に対する解釈と、器と花を一体化させる独自の思考に触れることのできる展覧会となっている。