日本橋高島屋と大阪高島屋で「いまの暮らしに、健やかな美を。 民藝展」が開催される。激動の時代においても人々に生活のなかの美を示唆し続ける民藝の魅力に焦点をあてた展示・即売会だ。会期は日本橋高島屋が8月26日~9月6日、大阪高島屋が9月9日~14日。
民藝運動の創始者である柳宗悦や陶芸家の濱田庄司、河井寬次郎たちによって1925年に「民衆的工藝」を略してつくられた「民藝」。この民藝の本流に連なる品と、若い世代が民藝スピリットを引き継ぎ生み出す品の双方を紹介し、これからの時代の「民藝のある暮らし」を提案するもの。
とくに注目したい企画が、『美術手帖』とコラボレーションした「アートから見る未来の民藝」だ。『美術手帖』では2019年4月号で「100年後の民藝 世界をつくる『もの』の再発見」と題し、「民藝」の現在性に着目した特集を組んでいる。同特集では、100年という時間を経ながらも、人々の暮らしに息づいている「民藝」をあらためて俎上に載せ、その運動と思想が現代社会のなかでどのように更新されうるのかを探った。
今回のコラボレーション企画「アートから見る未来の民藝」では、この特集に参加した「アウト・オブ・民藝」と青柳龍太を招き、コンセプト展示を実施する。
「アウト・オブ・民藝」は、デザインユニット「COCHAE(コチャエ)」のメンバーで「へのへの図案社」代表の軸原ユウスケと、「民俗と建築にまつわる工芸」という視点から陶磁器やタイルなどの学術研究と作品制作を行なう中村裕太によるリサーチユニット。これまでに民藝運動の周縁的な動向にまつわる人物、物品、出版社などのネットワークに注目し、そのつながりを「相関図」によって浮かび上がらせてきた。今回の展示では、日本橋高島屋という民藝において歴史的な意味をもつ場所を起点にした相関図をつくりあげる。なお「アウト・オブ・民藝」の展示は日本橋高島屋のみとなっている。
青柳龍太は、古美術から路上のゴミまでを「発見」して美術作品のなかに生かす「ファウンドオブジェ」を用いたインスタレーションの発表を続ける現代美術家。東京・神楽坂の裏路地で骨董商を営んでいた経験もあり、骨董や美術に造詣が深く、東京・新宿の登録有形文化財の建築、京都の町家、滋賀・近江八幡の古民家などの改修デザインも手掛けている。今回の展示で青柳は、未来の民藝をテーマにした作品を展示する。
デジタルテクノロジーの発達や大量生産・大量消費、そして新型コロナウイルスの世界的流行という未曾有の危機を経験し、日用品やものと人との関係性が変わってきたように、アートと人との関わり方も変化していく現代。民藝を通じて柳宗悦が伝えようとした「既存の価値にとらわれず自分の評価基準でものを見ること」を、アーティストたちがどうとらえて表現するのかを見ることで、「これからの民藝=未来の自分にとって価値のあるもの」を考えるきっかけをつくり出す。
また、民藝展では東北から沖縄まで、全国各地の風土や伝統を生かしながら育まれてきた陶磁器、漆器、木・竹工品などを紹介。さらに、民藝の「配り手」として民藝運動とともに歩み、現在も「民藝のセレクトショップ」として注目を集める名店と、各店が推薦する品々が顔をそろえる。「銀座たくみ」のような本流の配り手から、各地で民藝に新たな息吹を吹き込む若い世代による配り手までが一堂に会する。
さらに、民藝を知り、これからの世代につなげていく特別企画として、民藝運動のメンバーのひとりであるバーナード・リーチが、日本各地の民藝産地を撮影したフィルムなどをデジタルリマスター版で公開。日本初公開のものを含む貴重な上映機会となっている。
加えて、雑誌『Discover Japan』とのコラボレーション企画「民藝と、暮らす」も開催。「今の暮らし」をテーマに、インテリアスタイリストの中林友紀、菓子研究家の福田里香、モデルの知花くららが、それぞれのライフスタイルへの思いを込めたコンセプト展示を実施する。
本流から若い世代のものまで、様々な視点で民藝を楽しむことができる展覧会。生活のなかでの民藝の楽しみ方を、ぜひ訪れて見つけてほしい。