中国・四川省の省都であり、三国志の聖地やジャイアントパンダの繁殖研究基地がある街としても知られる成都。その成都で、現代美術のアートフェア「アート・チェンドゥ」が初開催された。
このアートフェアの創設者は、中国国内でアートコレクターとして知られ、自身のコレクションで展覧会のキュレーションなども行う1981年生まれの実業家・黄予(ホワン・イー)と、雑誌『ハーパーズ バザー アート チャイナ』のアートプロジェクトディレクターを務めた黄在(ホワン・ツァイ)の2名。黄予はアートフェアの開催にあたり、「中国中西部の文化的・経済的中心地である成都で現代美術のアートフェアを立ち上げることには特別な意味があると思います」と話し、成都を現代アートが息づく街にしたいとの意思を表した。
地下鉄春熙路站(チュンシーロード)駅ほど近くの広場に仮設された2軒のスペースで開催された「アート・チェンドゥ」。参加したのは、メガギャラリーとして知られる「ペース」をはじめ、現代中国を代表するポップ・アーティスト、徐震(シュー・ジェン)の作品を取り扱う「シャンアート・ギャラリー」、イタリア、北京、カナダ、キューバを拠点とする「ガレリア・コンティニュア」など31のギャラリー。成都市からは、同市拠点の作家の現代美術作品にフォーカスする「千高原艺术空间(サウザン・プラトー・アートスペース)」が出店した。
出品作品は絵画や立体作品をメインに、映像、メディアアート作品など多種多様。参加ギャラリーの一つ、「站台中国当代艺术机构(プラットフォーム・チャイナ・コンテンポラリーアート・インスティチューション)」のディレクター・孙宁(ソン・ニン)は、「これまで国内外の様々なアートフェアに参加してきましたが、アート・チェンドゥはゆったりとした会場設計と、成都の街にも似たリラックスした雰囲気が魅力的。そして、参加ギャラリーはビッグコレクターである黄さんならではの厳選された顔ぶれだと思います。大きなポテンシャルを持つ成都で新たなコレクターに会えることが楽しみです」と期待を寄せた。
いっぽうアート・チェンドゥでは教育普及にも注力。美術関連のキャリアを志す若年層のために、準備期間より「Young Arts Volunteer Project」と称したプロジェクトを開始、このプログラムを経た10〜20代の男女ボランティアスタッフが、来場者に積極的に作品説明を行う姿も目立った。
イタリア、ロシアで美術を学び、地元・成都に戻ってきたばかりだというアーティスト志望のボランティアスタッフは、「成都にある現代美術ギャラリーは4〜5軒ほどで、やはり北京や上海に比べると小規模な印象があります。アート・チェンドゥをきっかけに、地元・成都でも現代美術に注目が集まれば嬉しいです。また、中国ではアーティストを志す若者が多いため、アートの中核に関わるチャンスが少ないと感じることがある。国内外のギャラリースタッフや最前線で活躍するアーティストと交流できるアートフェアは、私自身とても貴重な経験になりました」として、アート・チェンドゥの継続的展開を願っていた。
また作品展示に加え、26日にはシンポジウムを開催。各分野のゲストを迎え、「ブロックチェーンのテクノロジーと新たな文化の生態系」「文化・アートのプロモーターとしての中国人アートコレクター」「中国絵画の変容」といった、多角的なテーマが議論された。コンパクトな規模の中に多彩で重層的なプログラムが集まるアート・チェンドゥは、コレクターとしてアートの最前線を見つめる黄予の関心や実感に基づく充実した内容が印象的だった。
今年始まったばかりのアート・チェンドゥはこれからどのように展開していくのか。そして成都は中国のアートシーンでどのような役割を担っていくのか。今後の動向に注目したい。