Googleが運営している「Google Arts & Culture」は、国内外の美術館のコレクションを収録し、美術館内のストリートビューや作品の高解像度ビューなどを楽しめるほか、テーマを設けてその概要を包括的に紹介するオンライン展示なども実施してきた。
その「Google Arts & Culture」が、マンガの歴史やその影響などを包括的に紹介するコンテンツ「Manga Out Of The Box」を公開。画像、動画、ストリートビュー、さらに機械学習を活⽤したマンガ⾵イラストの作成機能などにより、マンガの世界に触れることができる。対応⾔語は⽇本語、英語、スペイン語、フランス語となっており、日本のマンガが幅広い言語によって紹介されていることも特徴だ。
「Manga Out Of The Box」の内容を見てみよう。マンガの歴史についてのコンテンツでは、マンガの原点として⾔及されることが多い『⿃獣戯画』(12世紀)の歴史的な位置づけに迫る「『鳥獣戯画』は、本当にマンガか?」や、明治時代に「ポンチ絵」と呼ばれた欧米のカリカチュアが⽇本の絵画に与えた影響を追う「『ポンチ』から『漫画』へ」などを用意。いずれも豊富な画像とともに閲覧することができ、具体的な作品に触れながら歴史を知ることが可能だ。
また、⼿塚治⾍や藤子・F・不二雄といった、マンガを語るうえでは外せない重要人物の特集も充実している。作家としての来歴だけでなく、その表現の新しさや後進への影響を与えたまでがまとめられているので、文脈を踏まえた知識を得ることができるはずだ。
さらに「Manga Out Of The Box」のパートナーには、「川崎市 藤⼦・F・不⼆雄ミュージアム」「北九州市漫画ミュージアム」「合志マンガミュージアム」「豊島区⽴トキワ荘マンガミュージアム」「横⼿市増⽥まんが美術館」といったマンガを扱う美術館が名を連ねている。各館のオンライン展示を通じて、それぞれのコレクションの紹介や館のコンセプトを楽しむことができる。
今回の取り組みについて、「川崎市 藤⼦・F・不⼆雄ミュージアム」の学芸員である小林順子は次のように述べている。「藤⼦・F・不⼆雄の原画のアーカイブを通じて本館の活動を広く知ってもらうのみならず、『Manga Out Of The Box』のほかのストーリーとの関連から、藤⼦・F・不⼆雄をマンガの大きな文脈のなかでとらえる入口にもなることを期待します」。
加えて、現代美術とマンガとのつながりに言及している点も重要だ。とくに村上隆のプロジェクトに関するオンライン展⽰「ドラえもん×村上隆。⽇本⽂化を象徴する、マンガとアートの最強コラボ 」では、その活動を詳細な作品画像とともにたどることができる。
また、今回の「Manga Out Of The Box」興味深い試みとして、機械学習の技術を活⽤した「Giga Manga」も挙げられるだろう。「Magic mode」によって線や円などをランダムで描くと、マンガ⾵のイラストができあがる。さらに「Magic mode」を使わずに⾃由に描いたイラストでも、機械学習が好きな⾊を塗る⼿伝いをしてくれる。できあがったイラストはダウンロードできるほか、SNSでも共有ができるので、様々に応用して楽しむことができそうだ。
公開された「Manga Out Of The Box」について「Google Arts & Culture」のプログラムマネージャーであるエリザベス・カロットは次のように述べている。「マンガは日本文化を代表するもののひとつであり、世界中の人々が楽しんでいる。今回のプロジェクトは『Google Arts & Culture」としては最大規模で、7万枚の画像が含まれている。ぜひ多くの人にアクセスしてもらいたい」。
また、今回のプロジェクトに協力した明治大学国際日本学部教授の宮本大人は次のようにその意義を語った。「非商業的なインターネット上の媒体で、日本のマンガをこれだけの質量で取り上げたコンテンツの例は少ないのではないか。100を超えるオンライン展示からは、改めて日本のマンガの多面性がわかるはずだ。複数言語で公開されることで各国のマンガについての知識の差を知るきっかけにもなるのではないだろうか」。
誰もが触れてきたマンガという文化が持つ重層的な歴史や多様な表現を、あらためて学ぶことができる絶好の機会となるだろう。