2021.5.12

日本芸術院の分野拡充やジェンダーバランスを提言。検討会議が改革案をとりまとめ

文化芸術分野における国の栄誉機関である「日本芸術院」。その在り方を見直す検討会議の第5回が文化庁で行われ、提言のとりまとめが明らかにされた。

日本芸術院
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 文化庁に設置されている特別機関「日本芸術院」の会員の在り方をめぐり、文化庁の検討会議が提言をとりまとめた。 

 日本芸術院は、「芸術上の功績顕著な芸術家を優遇するための栄誉機関」(日本芸術院令第1条)として設置された公的機関で、その設立は1907(明治40)年の「美術審査委員会」(日本画・西洋画・彫刻)に遡る。その後、1919(大正8)年に展覧会開催だけでなく美術の重要事項について文部大臣に対して建議できる「帝国美術院」へと改組。同時に分野も日本画・洋画・彫像・工芸・書・建築と拡充された。1947(昭和22)年には現在の名称である日本芸術院へと変更され、現在に至る。その主な事業は、芸術に関する重要事項の審議し、大臣または文化庁長官への意見すること、日本芸術院賞の授与などだ。

 日本芸術院は院長1名と終身の会員120名以内(2021年5月12日の時点では100名が会員)で構成されており、会員の任命は部会の推薦と総会の承認を経て行われる。扱いとしては終身の非常勤国家公務員で、年額250万円の年金も支給される。日本芸術院関連の令和3年度政府予算額は5億2700万円におよんでおり、決して小さい数字ではない。

日本芸術院の課題とは

 この日本芸術院には課題もある。日本芸術院会員になるためには既存の会員からの推薦が必要なため、多様性は確保しにくい。会員の定数も問題だ。各部の定員は、第1部[美術]では56名以内(日本画15名以内、洋画15名以内、彫塑10名以内、工芸9名以内、書4名以内、建築3名以内)、第2部[文芸]37名以内(各分科の定員はなし)、第3部[音楽・演劇・舞踊]27名以内(各分科の定員はなし)。つねに欠員が埋まらない部や分科があるいっぽうで、定員が少ない部や分科はなかなか欠員が生じないというアンバランスな状態にある。また、分野についても100年間とくに変化はなく、現実と乖離しているとの指摘もある。

日本芸術院の組織図 出典=日本芸術院ウェブサイトより

 そうしたなか、昨年11月27日の衆議院文部科学委員会で日本芸術院の会員選考に関する国会質疑が行われ、立憲民主党・菊田真紀子議員が会員選考方法などについて問題を指摘。これに対し、萩生田文科大臣はより広い視野で検討する必要性があると答弁し、2月1日には第1回検討会議が行われ、その後も会を重ねてきた。

 5月12日には、第5回の検討会議でとりまとめ案が発表。大きく「会員の在り方の要件」「分野の拡充」「会員の選考方法」についての提言がまとめられた。

会員にジェンダーバランスを

 検討会議はまず、現会員の在り方について、そもそも内部推薦ではなく、文化勲章や文化功労者、重要無形文化財保持者各個認定(人間国宝)、芸術選奨文部科学大臣賞など、第三者によって選考される顕彰制度や賞をその指標とすべきと提言。また、現在会員のうち女性がわずか17パーセントである現状を踏まえ、各部でジェンダーバランスを配慮することが喫緊の課題であるとしている。

 加えて会員の高齢化も指摘された。現在の会員の平均年齢は82歳であり、この若返りに向けて、事務局機能の拡大も今後検討していくべきだとしている。

新分野に写真やデザインを追加

 今回の検討会議においてもとくに大きな構造変化を求めているのが、分野の再編と拡充だろう。

 検討会議では既存の第1部[美術]について、そもそも分科定員の廃止を提言。そのうえで、「日本画」「洋画」「彫塑」を「絵画」と「彫刻」に再編することを求めた。これによって、既存の「日本画」「洋画」に含まれない様々な平面絵画が対象となり、またインスタレーションなどの現代美術も「彫刻」として組み込まれることとなる。

 また、「建築」の分科名を「建築・デザイン」に変更するとともに、既存の枠組みにはない「写真」や「映像」については、第1部[美術]のなかに新たに「写真・映像」分科を創設。こうすることで、ファッションデザインやインダストリアルデザイン、グラフィックデザイン、写真、映像、メディア・アートといったジャンルの候補者が推薦できるようになる。

 このほか、海外から高い評価を受けるマンガについては、第2部[文芸]に新たに「マンガ」分科を創設。第三部[音楽・演劇・舞踊]については、これまで「演劇」分科に含まれていた映画を分離・独立させ、新たに「映画」分科を創設することを提言した。

「第5回 日本芸術院の会員選考に関する検討会議 議事次第」より

会員選考に外部有識者を

 これまでブラックボックスであった会員選考についてもメスが入れられた。これまでは既存会員からの推薦および部会での投票結果による選考で新会員が決められてきたが、検討会議は、文化庁が選ぶ外部の有識者が現在の会員とともに候補者の推薦と絞り込みを行うことを求めており、日本芸術院内に外部有識者からなる「芸術院会員推薦委員会(仮称)」を設置する案も示された。

 今回の検討会議に参加していた国立新美術館館長・逢坂恵理子は、「選考過程の透明性確保は重要。選考結果がよりよいかたちで国民に認知され、芸術家たちへの顕彰も認知される。よりよい改革が実現できるように願っている」とコメント。また東京大学教授の加治屋健司は「ジェンダーバランスに配慮にしたものとなり、2021年にふさわしい内容になった。真剣に議論した結果を芸術院で検討いただきたい」とまとめた。

 いっぽうで、検討会議にオブザーバーとして参加した日本芸術院長・高階秀爾は「大変参考になった。とりまとめ案はグローバル化した芸術の基準と日本の長い伝統が交わるもの。しっかり受け止めて、きちんとやっていきたい」と前向きな姿勢を示す。

 今後、このとりまとめ案が日本芸術院においてどれほど反映されるのか、注視したい。