「あいちトリエンナーレ」が名称と体制を変え、次回2022年は国際芸術祭「あいち2022」として開催される。そのテーマが「STILL ALIVE」に決定し、芸術監督を務める片岡真実よりコンセプトも発表された。
愛知芸術文化センターで開催された記者発表。片岡はまず、新型コロナウイルスのパンデミックに襲われる現在の世界に触れたうえで、「これからの数年がどういう年になるのかということを改めて考える必要がある。世界を包み込んでいる大きな問題は、コロナ以降の時代に、いかに回復し、持続可能な世界を築いていくのかということだ」とテーマを設定するにあたって考慮した課題を述べた。
片岡は「あいち2022」が開催される2022年は、コロナウイルスからの回復期として、美術だけでなくさまざまな領域からあらゆる提言が求められる時期になると指摘。不確かななかから未来を見出すことが、この時代を生きる我々に課せられたことだと述べた。
「あいち2022」のテーマ「STILL ALIVE」は、愛知県出身のアーティスト・河原温が、1970年代以降電報で自身の存在を発信し続けた作品「I AM STILL ALIVE」シリーズに着想を得たという。「あいち2022」では、この「STILL ALIVE」を多角的に解釈し、過去、現在、未来という時間軸を往来しながら現代美術の源流を再訪するとともに、類型化された領域の狭間にも注目。そこから、理想的で持続可能な未来を、いかにつくりあげるかを考える場の創出を目指す。
今回のテーマである「STILL ALIVE」のために、片岡は3つのビジョンを掲げた。
ひとつめは「過去から未来への時間軸を往来しながら『STILL ALIVE』を考える」だ。100万年後の未来における地球や人間の存在を長いスパンで考えながら、地球が美しいままにありながら、人間も平和に生きることができる方法を模索。
また、未来のみならず過去の多様な人類の歴史にも光を当て、かつて尾張・三河というふたつの国であった開催地の愛知のみならず、世界各地のローカルな文脈を再考。さらに、新型コロナウイルスや、人種、ジェンダー、民族的な差異に対する差別や不平等、国内の女性や子供の自殺者などの課題を、現代の問題としてとらえ対峙していく。
ふたつめは「現代美術の源流を再訪しつつ、類型化されてきた芸術分野の狭間に光を当てる」だ。
「あいち2022」では、現代美術の根底を成すコンセプチュアル・アートの源流に再注目し、愛知が生んだ河原温や荒川修作をはじめとしたアーティストに光を当てる。また、地場産業、伝統工芸、食文化など固有の文化的伝統がある愛知県の、窯業や繊維業も再考。工芸と美術のあいだのあいまいな場所にあるものを、固定概念を取り払いながら、同時代に生きる表現として構築する。
さらに、河原温が数字や言葉を使った作品を多く残していることにも着目。ソーシャルメディアが発達した現代において、文字を使った美術表現やポエトリーも紹介していく。加えて、パフォーミング・アーツと共存してきた「あいちトリエンナーレ」の歴史を踏襲しつつ、なかでも現代美術と重なる領域が多いパフォーマンス・アートにとくに注目をする。
3つめは「生きることは学び続けること。未知の世界、多様な価値観、圧倒的な美しさと出会う」だ。
難解であると言われることが多い現代美術作品だが、その背景や制作された時代、文化などのストーリーを学ぶことで、多様な人々の感情や意識への共感へとつながる。「あいち2022」でも、作品をより理解できる様々なラーニング・プログラムを用意。見たり体験したりした人が、今後の人生に活かすことができるような知恵や知識を得て、精神の糧になるような環境づくりに取り組む。
また、虹を美しいと思うように、説明がなくても説得されてしまう圧倒的な美しさへの感動を創出し、明日を生きるポジティブなエネルギーにつながる出会いや体験の場になることも目指す。
片岡は、今後の進行について次のように語った。「コンセプトやテーマが決まった現在をスタート地点に、どのような作家のどういった作品を選び、味わい深い物語をつくりあげることができるかを考えながら、今後1年半ほどで作家や作品の選定を進めていく。現状では国境を越えるリサーチができないので、それぞれの地域に済んでいるキュレーターなどの協力を仰ぐことになると考えている」。
また、アーティストの数や展示方法、デジタル領域の活用についてはほとんどが未確定としながらも、大まかな展望を次のように語った。「おそらく、アーティストの数は例年並みとなるだろう。会場もまだ決定しておらず、来年以降下見を進めていくが、独立したテーマ別に会場を用意するというかたちではなく、入り乱れ絡んだ展示を目指すことになるだろう。デジタル領域については、2022年の段階でコロナがどういう状況になっていようとも、活用することになると見立てている。いっぽうで、芸術祭のリアルな場で作品を体験することも重視していく」。