今年12月2日、新型コロナウイルスのため94歳でこの世を去った第20代フランス大統領、ヴァレリー・ジスカールデスタン(在任期間は1974〜81年)。その功績を偲び、オルセー美術館を「オルセー美術館ヴァレリー・ジスカールデスタン」とすべきだという動きが、政治側から起こっている。
1986年に開館したオルセー美術館は、いまやルーヴルと並びフランス・パリを代表する美術館だが、もともとは1900年のパリ万国博覧会の開催にあわせて建設されたオルセー駅の鉄道駅舎兼ホテル。この建物を美術館に改修するという決定がなされたのが77年10月20日の閣僚会議のことであり、これを発案したのが当時在任中のジスカールデスタン大統領だった。
オルセー美術館があるパリ7区のラチダ・ダティ区長は、こうしたジスカール・デスタン大統領の功績を称え、「7区にあるこの権威ある施設に彼の名を冠することを国にお願いする」とツイート。マクロン大統領宛に名称変更を依頼する書簡を送ったことも明らかにしている。
J’ai adressé, ce jour, un courrier au Président de la République Emmanuel #Macron et à la Ministre de la Culture pour leur demander de donner au @MuseeOrsay l’appellation « Musée d’Orsay - Valéry Giscard d’Estaing ». #VGE #Paris7 pic.twitter.com/4XFDoS9K7K — Rachida Dati ن (@datirachida) December 3, 2020
また、イル=ド=フランス地域圏知事のヴァレリー・ペクレスも、これに賛同する考えを示している。
#VGE transforma la Gare d’Orsay en l’un des musées les plus visités du monde, à la gloire de nos Impressionistes, je demande à l’Etat, comme @datirachida, que le Musée d’Orsay, puisse désormais porter son nom! https://t.co/3DgvYA1mVi — Valérie Pécresse (@vpecresse) December 3, 2020
しかしながら、地元フランスの有力紙である『ル・モンド』紙はこの「改名」について、コストがかかるうえ、時代に即していないと批判的な論調を見せるなど、いますぐに改名へと事態が動き出すことはなさそうだ。
かつてオルセー美術館開館準備室に在籍したていた前三菱一号館美術館館長・高橋明也は、この動きについて「欧米で、為政者の名を冠する公共施設を目にすることは珍しくない。とりわけ近年のパリには、ポンピドゥー・センター、ミッテラン図書館、ケ・ブランリー=シラク美術館のように、第五共和制を代表する大統領たちの名を付けられた大規模文化施設がいくつもみられる」としつつ、次のように指摘する。
「他国の論議に口を挟むのはまことにおこがましいが、個人的には若干違和感を覚えないでもない・そのまま放置されれば将来は廃棄・解体になるやもしれなかったオルセー駅を保存・改装し、19世紀美術の専門美術館に変えるアイデアを現実のプロジェクトに結びつけたのは確かに彼だが、その後の建設作業に積極的に関わったという話は聞かない。美術館開館準備室のスタッフからもジスカールデスタンの名前を聞くことはあまりなかったように記憶している。この計画に『ル・モンド』紙は否定的だが、少々大仰な時代錯誤感は否めないし、彼を顕彰するには別のやり方が適切な気はする」。