美術史家・辻惟雄が1970年に刊行した『奇想の系譜』(美術出版社)。同書では、それまでまとまって書籍や展覧会で紹介されたことがなかった自由な発想を持つ日本美術の数々が紹介された。一昨年に開催された「生誕300年記念 若冲展」(東京都美術館)では最大5時間もの入館待ちが起こり、44万人以上の入場者数を記録。同書で紹介された作家たちは半世紀を経たいま、注目の的となっている。
本展「奇想の系譜展」では、そんな若冲を含む、同書で取り上げられた岩佐又兵衛、狩野山雪、曽我蕭白、長沢芦雪、歌川国芳とともに、白隠慧鶴、鈴木其一の2名を加えた計8名の画家を展観。近年の日本美術ブームを牽引するともいえる作家たちが一堂に会する機会となる。
辻は「奇想の系譜」を記した理由として「日本の美術は絶えず活性化させないと平面的でつまらないものになってしまう。江戸絵画を流派で縦割りをするのではなく、立体的に、ダイナミックにしなければいけないと考えた」と語る。
では、具体的にどのような作品が並ぶのか?
まず本展で注目すべきは、新発見の作品だ。伊藤若冲の《鶏図押絵貼屏風》(18世紀、個人蔵)は雄雌の鶏が12図にわたって描かれたもので、若冲82歳の作品。「晩年に至るまでパワーは落ちなかった」と辻が語る本作は近年発見され、今回が世界初公開となる。
伝岩佐又兵衛の《妖怪退治図屏風》(江戸時代、個人蔵)は本展調査の過程で発見されたもので、左に武士たち、右に妖怪たちが描かれた壮大な屏風。又兵衛作品との確証はないものの、工房制作であることは確実とされている。
また初公開の作品にも注目したい。
昨年、調査過程で発見されたという若冲《梔子(くちなし)雄鶏図》(18世紀、個人蔵)は、昭和2年まで京都の東本願寺大谷家で所蔵されていたもので、淡泊な色彩や落款の書体などから、若冲30歳代の希少な初期作だと思われるという。
いっぽう長沢芦雪の《猿猴弄柿図(えんこうろうしず)》(18世紀、個人蔵)は、1915(大正4)年の売立目録(カタログ)に掲載されていたもので、今回の調査で発見。柿を抱え込んだ岩の上の猿と、岩をよじ登ろうとする子猿が描かれており、猿の表情が特徴的な作品だ。
このほか、本展には若冲の肉筆画でもっとも質が高い作品のひとつとされる《紫陽花双鶏図屏風》(18世紀、エツコ&ジョー・プライスコレクション)や、山下が《動植綵絵》に匹敵すると評する《旭日鳳凰図》(1755、宮内庁三の丸尚蔵館蔵)、《象と鯨図屏風》(1797、MIHO MUSEUM蔵)、あるいは曽我蕭白《雪山童子図》(1764頃、三重・継松寺蔵)や《群仙図屏風》(1764、文化庁蔵、展示期間:3月12日〜4月17日)、長沢芦雪《白象黒牛図屏風》(18世紀、エツコ&ジョー・プライスコレクション)、狩野山雪《梅花遊禽図襖絵》(1631、京都・天球院蔵)、白隠《半身達磨図》(18世紀、大分・萬壽寺蔵)など、そうそうたる作品が並ぶ。
国内外の美術館や個人から出品される約100点を通じ、日本美術ブームにさらに火がつきそうだ。
なお、本展では横尾忠則によるスペシャルイメージも制作。こちらもあわせてチェックしたい。