小沢剛は1965年東京都生まれ。東京藝術大学在学中に、自作の地蔵やそのイメージを世界各地の風景とともに写真におさめる「地蔵建立」シリーズを開始。93年からは牛乳箱を用いた世界最小の移動式ギャラリー《なすび画廊》や、参加者とのコミュニケーションによって作品や状況をつくる《相談芸術》、世界各地の地元料理の食材でつくられた武器を持つ女性たちの写真《ベジタブル・ウェポン》など、様々なシリーズを手がけてきた。また近年では、2013年のフェスティバル/トーキョーで『光のない。(プロローグ?)』(E・イェリネク作)の演出と美術を手がけたほか、「さいたまトリエンナーレ2016」や「ヨコハマトリエンナーレ2017」などの国際展にも参加している。
本展では、小沢の初期の代表作《なすび画廊》から新作まで、日本美術史からテーマを得て制作した作品を展示。タイトルの「不完全」は、東京美術学校(現・東京藝術大学)初代校長・岡倉天心(覚三)の著書『茶の本』に頻出する言葉から取られたもので、「完全を目指す途上に立つ、限りなく豊かでやさしい意味」を持つという。
ハイライトとなるのは、新作の大規模インスタレーション《不完全》だ。これは、明治初頭にヨーロッパから日本に移入されたのち、近代絵画の時代に独自の発展をとげた「石膏像 / 石膏デッサン」をテーマにしたもの。ヨーロッパでは廃れながら、日本では依然として美術教育の教材として存続しているこの教育手法を、現役の東京藝術大学教授でもある小沢が作品に仕立てる。
この他、日本人に欠かせない調味料である醤油がかつて画材として使用されていたという架空の設定のもと、過去の著名な美術作品を醤油で再現した《醤油画資料館》(1999)や、「戦争画家」として時代の流れに翻弄された画家・藤田嗣治をモデルに史実とフィクションが入り交じった物語をつくり出した《帰って来たペインター F》(2015)なども展示。小沢が生み出してきた「パラレルな美術史」で美術館を埋め尽くす。