人類学や民俗学的な視点から世界中の様々な土地を被写体に作品を撮り続け、ヒマラヤを始めとした8000メートル峰に自ら登頂して撮影した作品でも知られる石川直樹。その個展「K2 / Broad Peak / Nanga Parbat」が、渋谷のギャラリー「SAI」で開催される。会期は1月13日~2月5日。
石川は1977年東京都生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。2008年に『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)で日本写真協会賞新人賞、講談社出版文化賞を受賞。11年に『CORONA』(青土社)で土門拳賞、20年に『EVEREST』(CCC メディアハウス)、『まれびと』(小学館)で日本写真協会賞作家賞を受賞している。近年のおもな個展に「JAPONÉSIA」(ジャパンハウス サンパウロ、オスカーニーマイヤー美術館、ブラジル、2020-2021)、「この星の光の地図を写す」(水戸芸術館、新潟市美術館、市原湖畔美術館、高知県立美術館、北九州市立美術館、東京オペラシティアートギャラリー、2016-19)がある。
石川は、2022年春から秋にかけて、パキスタンとネパールにまたがって点在するダウラギリ、カンチェンジュンガ、K2、ブロードピーク、ナンガパルバット、マナスルの6つの8000メートル峰に遠征。雪崩で撤退を余儀なくされたナンガパルバットをのぞいた5つの山の登頂に成功している。本展ではこのうちK2、ブロードピーク、ナンガパルバットの3山で撮影された作品が展示される。
石川は、高所登山においても大きく重量があるフィルムの中判カメラを使用してきた。その理由を次のように述べている。「失敗したから消す、ということのできないフィルムカメラは、旅先における一期一会の出会いを、その状況ごとに克明に写しとることのできる手段だと考えています。高所登山において、フィルムの中判カメラを持っていく人は皆無で、そのことを一つとっても、抜き差しならない状況下における瞬間の光が、きっちり像を結んでいるのではないか、と信じています」(プレスリリースより)。極限ともいえる環境で石川が銀塩写真でとらえた大型の作品群が本展では並ぶ。
また、石川はこの遠征に日付がフィルム上に記録される古い35ミリカメラも持参。日記を記すように日々の撮影をしたという。遠征時の状況や自身の心情を記録したこれらの小さな写真も会場では見ることができる。
自身の年齢と限界を見据えながら、登頂が叶わなかったナンガパルバットへの再挑戦を今年の喫緊の課題とする石川。いまも継続している石川の旅の一端が垣間見える展覧会となりそうだ。