明治から大正にかけて活躍した日本画家・鈴木華邨(すずきかそん・1860〜1919)。その画業をたどる特別展 「幻の天才画家 鈴木華邨展 ─甦る花鳥風月の世界─」が、阪急電鉄・阪急阪神東宝グループの創業者・小林一三が蒐集した作品を所蔵する逸翁美術館で開催される。会期は10月9日〜12月12日。
鈴木華邨は狩野派の中島亨斎(きょうさい)に絵を学び、のちに亨斎の世話で菊池容斎に師事。その後、様々な画派に私淑し、狩野派・文人画・円山四条派などの影響だけでなく、西洋画の影響を受けた画も残した。また華邨は挿絵画家としても活躍し、1900(明治33)年のパリ万国博覧会に出品した際は銅牌を受賞。ヨーロッパでも高く評価された画家のひとりだったが、現在では語られることが少なくなってしまった画家となっている。
逸翁美術館の創設者・小林一三は1906(明治39)年に、華邨・寺崎廣業・川合玉堂を後援する会「鼎会」を発足。当時、三井銀行に勤めていた小林一三は華邨作品の蒐集に注力していた。その結果、逸翁美術館は鈴木華邨の作品をまとめて収蔵する世界有数の美術館となっている。
本展では、この華邨の作品を初公開のものを含めて一挙に公開。その画業を振り返り、華邨が描いた花鳥風月の世界の鮮やかさを浮き彫りにするものだ。《花鳥図》《桧樹双鹿図》《秋草に兎図》などいずれも個人蔵でこれまで公開されてこなかった作品からは、高い画力と円山四条派に影響を受けた巧緻な写実性を見ることができる。
なお近年、鈴木華邨と同年代に活躍した同門の渡辺省亭や、華邨の弟子である小原古邨などの大規模な展覧会が開催されるなど、明治から大正にかけて活躍したにもかかわらず、現代ではあまり顧みられなくなっていた画家にスポットライトがあたっている。鈴木華邨もあらためていま見ておきたい画家のひとりだ。