風を動力源に、体を滑らかに動かすこの造形物に見覚えはないだろうか? まるで生き物のような「ストランドビースト」を生み出したのは、アーティストのテオ・ヤンセンだ。
ヤンセンは1948年オランダ生まれ。デルフト工科大学で物理学を専攻し、その後画家となる。86年から新聞のコラムを執筆するようになり、そのなかの記事「砂浜の放浪者」をきっかけに、90年代から「ストランドビースト」の制作を開始。以来、祖国の海面上昇問題を解決するべく、芸術と科学を横断する試みを続けてきた。
「ストランドビースト」とは、オランダ語の砂浜(Strand)と生物(Beest)を組み合わせたヤンセンによる造語。ボディは黄色いプラスチックチューブで造形され、特徴的な脚の動きは物理工学を基盤に、コンピュータ上での綿密なシミュレーションによって生み出されている。
シンプルに見えて、筋肉や神経細胞、脳など様々なパーツを有する「ストランドビースト」。作者であるヤンセン亡き後も自立して砂浜で生きることを目指し、歩行のほかにも方向転換や危険察知などの能力を備えている。
北海道・札幌芸術の森美術館で開催の本展では、日本初公開の5作品を含む12作品を展示。実際に動く巨大な「ストランドビースト」を体感できるほか、その構造や動きの仕組みを明らかにし、ヤンセンがつくり出す世界の魅力に迫る内容となっている。