岡田利規が見た「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」。日本におけるコンテンポラリー・ダンスの未来を考える【4/4ページ】

岡田利規が考えるコンテンポラリー・ダンスの可能性

──岡田さんにとって、思い出深いコンテンポラリー・ダンス作品はあるでしょうか。

岡田 いろいろとあるはずですが、いまパッと思いつくのはフィリップ・ドゥクフレの『トリトン』(*1)。あとコンスタンツァ・マクラスの『ヘル・オン・アース』(*2)。どちらも、「こんなのいままで見たことない」という感動と、「こんなものが世の中に存在するのか」ということへの驚きを得た作品です。

──ご自身が演劇作品をつくるうえでも、その「見たことない」という驚きをつくることは意識しているのですか。

岡田 そのようには考えていません。観客がこれまでどんなものを見てきているかがわからないので。僕には、演劇というフォーマットにおいてこういうことも可能なのではないか、というアイデアがいろいろとあります。それを試してみたいのです。

──これは演劇にもコンテンポラリー・ダンスにも共通しますが、美術や音楽の作家、演者やダンサーなど、外部の表現者と一緒に作品をつくることも多いと思います。岡田さんも、例えば音楽家の藤倉大さん、ダンサー/俳優の森山未來さん、美術家の金氏徹平さんなどと協働して作品をつくっています。表現者同士がともにひとつの作品をつくるうえで気をつけていることはありますか。

岡田 作家性って漏れ出るものだと思うんです。だからコラボレーションのときは、その相手から漏れ出たものがしっかりと作品のなかの一定以上のスペースを占めるよう、そのスペースを空けておくことが大事で、空けてさえおけばいいとすら思っているかもしれません。

 その意味では、(ラ)オルド『ルーム・ウィズ・ア・ヴュー』で僕は、作品のコンセプトが要請する身体をはみ出してバレエダンサーたちから漏れ出る個々の身体が見たかったんだと思います。実際、それが少し発露されたような短いデュオのシーンや3人のシーンが作中にはありました。そこは僕は好きでした。

──最後に、演劇という分野の前線で制作を続けてきた岡田さんにとって、コンテンポラリー・ダンスはどのような存在でしょうか。

岡田 僕が20代後半くらいだった頃は、海外で起きていたコンテンポラリー・ダンスのムーヴメントが日本でも頻繁に紹介されていて、それにインスピレーションを受けて国内でも「変なこと」がいろいろ起こっていた気がします。演劇をやっている僕としては、当時のダンスのその活況に羨望の眼差しを向けていました。

 僕の印象としては、現在のコンテンポラリー・ダンスはそうした存在ではなくなっている。またそうなってくれたら面白いですよね。時代の周期としても、そろそろその時期が到来するんじゃないかと期待しています。「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」のプロジェクトが、そのための刺激を与えてくる立役者になってくれたらいいなと思っています。

アレッサンドロ・シャッローニ ラストダンスは私に 2024 Photo by Ryo Yoshimi Courtesy of Kyoto Experiment

*1──フランスのダンサー/振付家であるフィリップ・ドゥクフレ(1961〜)が1990年に発表した、サーカスをモチーフとしたダンス作品。芸人たちが奇想天外な芸を、その身体を使って様々に繰り広げる。
*2──アルゼンチン生まれの演出家、コンスタンツァ・マクラス(1970〜)による、ダンサーとともに移民の子供たちが参加するダンス作品。

編集部

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