同じコンセプトの作品100点の共鳴を感じたい。野田裕示インタビュー

ギャルリー東京ユマニテとザ・ギンザ スペースの2会場で「100の庭」を同時開催した野田裕示。木箱にキャンバスを入れ、異なる形に切り抜いた板で蓋をするレリーフ状の絵画作品100点を手がけた意図について話を聞いた。

文・写真=中島良平

野田裕示「100の庭」(ギャルリー東京ユマニテ)展示風景より、上段左から、《WORK 2184》(2019)、《WORK 2167 》(2018)、《WORK 2165 》(2018)、《WORK 2168 》(2018)、《WORK 2148 》(2018)、下段左から、《WORK 2242 》(2020)、《WORK 2253 》(2020)、《WORK 2244 》(2020)、《WORK 2164》 (2018)、《WORK 2157 》(2018)

 支持体と絵画表現のあり様をテーマに制作を続けてきた野田裕示。木枠やパネルにキャンバスを張るという絵画の基本的な構成要素を尊重しながら、絵画の可能性を追求してきた。そして「100の庭」では、以前手がけた箱状の作品のコンセプトを踏襲しながら、同じ方法でさらにたくさんの作品をつくることで「作品自体がどう進化し展開していけるのかを見てみたい」と、新たな発見を求めて今回の制作をスタートした。

 「絵画を『描く』というよりも、私は絵画を『つくり』たい。立体作品ではないけれど、絵画をある種の物質としてとらえて、絵具や板、キャンバスなどを扱うことに、私なりの、作品を制作する魅力を感じてきました。そういう思いで続けるなかで、普通は木枠にキャンバスを張ってそこに絵を描きますが、そうではなく、手前にパネル(木枠)があって、キャンバス(麻布)が奥にある逆転した構造を考えたのです。そこでは箱という形態を用いることにしました。箱には何かを入れるものという概念もありますし、そこには空間も生まれます。箱を用いることで表現の幅が広がると考え、この制作方法にたどり着きました」。

野田裕示「100の庭」より、左から、《WORK 2143》(2018)、《WORK 2257》(2020)
野田裕示「100の庭」(ギャルリー東京ユマニテ)展示風景より

 三分割された画面(二分割の作品も20点ほど制作)は、色を塗り分けた3枚の板で構成され、それぞれの板に空いた穴からのぞくキャンバスが生み出す陰影も構成要素になる。穴の形は、以前の制作の産物だ。紙に垂らした絵具をスキージーで引っかいて画面をつくる作業を繰り返していたときに、画面に絵具が付く部分と付かない部分が生まれ、その白く抜けた部分がさまざまな表情を見せたことに魅力を感じ、それらのかたちを拡大・縮小して、板をくり抜く際の下絵として用いたという。そのように制作中に生まれた発見などがいくつも絡み合い、1点の作品のなかに複雑に関係しあっていることから、人それぞれが抱くイメージが多様な「庭」という言葉が思い浮かんだ。

野田裕示「100の庭」(ザ・ギンザ スペース)展示風景より

 「前に『スランプのときにはどうするんですか』と聞かれたことがあるんです。そのとき自分でもとっさにうまく答えられたと思うんですが、私はいままでにスランプがなかったと答えたんです。強がりではなくて、私にとっては描くテーマがなくなったり、つくりたいものがなくなったときがスランプで、かりに思ったようにいかなくて失敗作ができたとしても、それはスランプじゃないんですよね。幸いにもつくりたいものがゼロになったことがないんです。展開の度合いは、1年ごとに新しいものが見つかることもあれば、5年ぐらい小さな歩幅で進むこともありますが、それでも変化しながらつくり続けますから私にとってスランプではない。そうすることで、だんだん光が見えて希望がもててくるんです」。

 複数の構成要素が制作プロセスを想像させる野田裕示の「100の庭」。個別の作品のコンポジションを楽しむことも、同じ空間に展示された作品同士が共鳴して生み出す空気を味わうこともできる。時間をかけて体験したい展示だ。

野田裕示「100の庭」(ザ・ギンザ スペース)展示風景より
 

編集部

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