松村淳「METAFICTIONAL ADAPTATION CYCLE」
小学生の頃に夢中になったアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-96)で死の描写を見て、「人間はなんで生まれてきて思考をするのか、ということを疑問に思った」という松村。より広く生物全般を学ぶことが自分の存在意義を知ることにつながるのではないかと考え、生物学を、それも人間とまったく違う形をしていて住む場所も異なり、知性の高さが知られているイルカを研究しようとアメリカの大学で海洋生物学を専攻した。そこで進化学などを学びながら、自身の内面への興味がより深まったという。
「アメリカの大学で海洋生物学を学ぶ傍ら取っていた写真やドローイングの授業のなかで、自分がつくる作品にはどうしても日本的な部分があると感じ、日本のものづくりや工芸に興味をもち始めました。大学卒業後にはものづくりの技術を学ぼうと、多治見市陶磁器意匠研究所に入ります。そこでは、民藝や生活工芸への関心から陶芸を始めたのですが、早いペースで多くの器をつくるのではなく、時間をかけて丁寧にものづくりをしたいと思ったんです。時間をかけて削ったりヤスリをかけたりという作業を続けていると、集中していってゾーンに入り、自分が意図せずに内面から出てくるような形ができあがることがわかりました。全体的なフォームは曲線的で、ディテールは自分が浸かってきたアニメや映画などSF的なサブカルチャーの影響から生まれた造形です」。
練り、成形、焼き、というプロセスごとに、素材である磁土は反作用を見せる。乾いていく過程でヒビが入ったり、焼くことで歪んだり、釉薬ののり具合によってテクスチャーが変化したり。その反作用に自らが適応し、次に取るべき方法を考え、新たな作品の発想につなげるというサイクルを展覧会名「METAFICTIONAL ADAPTATION CYCLE」に込めた。
「自分としてはつねに完璧なものを目指すんですけど、技術がそこに到達していないと割れやヒビが生まれます。例えば、1週間かけて削っていた作業が無駄になったりするので、やはりショックを受けますが、その磁土のリアクションに対してどう対応するかと考えているときには、制作にグッと入り込むことができます。そうすることで失敗を次につなげることができる。そのサイクルを続けて、この扱いづらい磁土という素材をどう料理していけるかの試行錯誤はやりがいがありますし、それが磁土で制作を続ける理由なのかもしれません」。
川端健太郎「Knee Bridge」
松村と同じく多治見市陶磁器意匠研究所の修了生である川端健太郎も磁土で制作を行う。しかし、同じ磁土を用いているのかと驚かされるほどに二人の作品の質感は異なる。生の状態での粘度などの関係で、手びねりでの制作に向いていないと言われている磁土であるが、川端は「扱いづらい素材と言われると、でもできるんだよ」と、陶土を扱うのと同じ感覚で磁土に接し始めたという。有機的な形状と質感、自然の風景を連想させるような造形の背景について次のように説明する。
「研究所の2年生だった頃に、映画監督の河瀬直美さんの制作に携わる経験がありました。卒業生でもある加藤委さんが映画に出てくる窯の監修をすることになって、時間の融通がきく僕ら学生が毎週末に山に行って、土を掘って窯のレンガのようなものをつくったりしたんです。そのときの山の中でのイメージがいまの作品の最初のテーマになっています。10人ぐらいで当番制で昼ご飯をつくって鍋から皆にご飯をよそう時のイメージからスプーンのモチーフにもなり大きな経験になりました」。
最初は自宅の棚を自作の食器で埋めたいという思いを持っていたが、器から延長して作っていくうちに、自然の造形とつながるような立体作品の制作にのめり込んでいった。白く焼き上がる白磁にどのように色を加えていくか、ガラスや石などを混ぜながら新たな質感を試していく。そして、焼成の際に生まれる切れ目や釉薬の反応には、コントロールしきれない部分もあるため、制作を繰り返しながら素材の扱いや火の入れ方の鍛錬を続ける。
「最初は器もつくっていましたが、焼き物に携わりながら制作の配分も変わってきて、時代の流れであったり色々と変化するもので発表する場も少しずつ変わり、作品も変遷していき、やり続けていると、陶芸の枠を超えて自分の作品をとらえてくれる人もいることがわかってきたし、僕としても自分の考えていた作品イメージから少しずつやりたいことを表現していくことでジャンルの幅が広がっていければいいなと思っています。自分のなかにあるイメージを土で形にするだけではなく、絵を描いたり別の素材で表現して自分が解消できるならやるかもしれませんし、そんなことを考えながら制作を続けています」。
岐阜県の山間で家族と暮らし、自身が手がけた多くの鉢で多肉植物を栽培しながら制作に励む川端。磁土から新たな表現を生み出し、現代陶芸の領域を拡張していく。