間(あわい)を行き来する者たち
繊細でおぼろげな色彩がつくる幻想的な世界のなかに佇む、大きな瞳をもつ少女。作家のob(オビ)は、10代半ばから想像上の少女をモチーフに絵画を描き、18歳での初個展を機に作家活動を本格的に開始した。「絵の中の少女と自分が近しい存在だった。彼女たちは、自己表現するための適切なモチーフだったんです」と振り返り、「今は、少女たちに自分を投影していません」と続ける。
その契機となったのは2014年。個展を行った際、来場者のひとりがobとの会話の途中でふいに落涙した出来事だった。目の前で気持ちの揺らぎを見せる様子に、作家は関心を寄せる。「泣いた理由はわからなかったけれど、心許ない姿が少女のイメージに重なりました。今は、そんな人たちを思い浮かべながら少女を描いています」。不安定な思いを抱え日々を生きる、あるいはマイノリティーとされる人々。人々の揺らぎに共感するように、少女は画面の中からまっすぐにこちらを見つめている。
Kaikai Kiki Galleryにて1月20日から2月23日まで開催される個展「あわいにゆれる光たち」では、馬と人の恋を描いた絵画や、小屋を模したインスタレーション、初の映像作品など約20点を発表。作家のこれまでの作品と異なり、少女の背景には自然風景が描かれていることに気づくが、それは2014年、青森で滞在制作をしたことをきっかけにob自身が自然に触れ、祈り・神などに対して様々な発見をしたことが発端だという。「少女たちも風景の中で何かに気づいているのもしれません」。現実と非現実の「あわい」を自由に行き来する媒介としても存在している少女の世界。それは私たちの過去や記憶とも地続きにあることが、作品を通してほのめかされる。
(『美術手帖』2017年2月号「ART NAVI」より)