2022年も残り2週間を切った。パンデミックの数年からようやく日常を取り戻し、あっという間の1年だったように感じる。今年見た欧州各地での展覧会や国際芸術祭を振り返ると、既存の概念や社会システムからの転換をダイナミックに図ろうとする動きが局所で発生していたことが、印象深かった。
ベルリンのアートシーンをみると、美術館やギャラリーとは異なる形態で話題となるような企画展やイベントを展開している芸術団体の動きが気になった。なかでも、パンデミックが起こる前年に立ち上がり、ホーリー・ハーンダン(Holly Herndon)、レフィーク・アナドール(Refik Anadol)、ヤコブ・クスク・ステンセン(Jakob Kudsk Steensen)、ロバート・アーウィン(Robert Irwin)といったテクノロジーと科学、芸術を掛け合わせ国際的に活躍する気鋭のアーティストとのコミッションワークを手がけ、大規模個展を展開する芸術財団「Light Art Space (LAS)」は注目であろう。今年9月には、人工知能(AI)を組み込み、変容し続ける作品を発表するイアン・チェン(Ian Cheng)を招いた展覧会を開催し話題となった。LASの個展のほとんどは、ベルグハイン(Berghain)やクラフトワーク・ベルリン(Kraftwerk Berlin)といった巨大な元工場などを利用したクラブや文化施設で開催されるのも特徴だ。
本記事では、LASでディレクターを務めるベッティーナ・ケームズ(Bettina Kames)にインタビューを敢行し、彼らの取り組みを紹介する。
──まず、LASのスタートとその背景について教えてください。
LASはベルリンを拠点とする非営利財団で、2019年からアートや新しいテクノロジー、サイエンスが交差する領域で活動しています。新しい展示形式や実験的なプロジェクトのサポートをとおして、ローカルや国際的なコミュニティに対し、魅力的な芸術体験を生み出すことに尽力してきました。LASは、未来志向のアプローチを育み、わたしたちが持つ固定概念や認識に挑戦すること、そして未来のヴィジョンを描くためのインスピレーションを与えることをミッションにしています。
──これまでのプログラムはどんなものがあるのでしょうか?
2019年以降、私たちは、新しいテクノロジーをいち早く試し、クリエイティブとサイエンスの両分野の境界を押し広げ、思考の変容をうながすような取り組みを行っているアーティストたちと展覧会をつくってきました。Kraftwerkで行われたレフィーク・アナドールによるAIと人間のインタラクティブなインスタレーション《Latent Being》、またヤコブ・クスク・ステンセンを招いた《Berl-Berl》などです。彼は会場となったBerghainを仮想的な湿地に変え、生態学と神話を探究するインスタレーションをつくり出しました。最近では、ロバート・アーウィンによる16×16メートルの巨大なライトを使用したインスタレーションや、ゲームエンジン「Unity」でつくられたアニメの中で、もっとも長く複雑な作品であるイアン・チェン《Life After BOB》などを発表しています。