ヨーロッパ企画代表の上田誠に聞く コメディとアートの枠組みを超える新作
京都を拠点に活動する劇団・ヨーロッパ企画の次回作が、アートをテーマにした作品だという。ヨーロッパ企画と言えば、2005年に映画化された『サマータイムマシン・ブルース』など仕掛けのあるコメディ作品を毎年コンスタントに発表。14年からは京都にて演劇のフェスティバル「ハイタウン」をビエンナーレ形式で開催、また前作『来てけつかるべき新世界』(2016)においては、脚本・演出を手がけている代表の上田誠が第61回岸田國士戯曲賞を受賞するなど、来年の結成20年を前に期待が高まる劇団だ。
新作の題材はトロンプルイユ(だまし絵)。「僕自身アートには詳しくないですが、M.C.エッシャーの作品がずっと気になってました。アートシーンのど真ん中ではないのに大衆性は高いという意味で立ち位置がわかりづらい存在感に、親近感が湧くというか。それが、数年前にエッシャーのドキュメンタリー映画を見たことで人物像や時代の空気も知ることができ、『これはコメディになる』と思ったんです」。上田は当初、エッシャーのコメディにしようと調べていたが、そのうちだまし絵の世界全体に傾倒し、オリジナル脚本作品をつくるに至ったという。
作品の舞台は20世紀半ば、シュルレアリスムの作家が活躍したフランス。ある不遇の画家が亡くなったところから物語は始まる。画家の部屋に残された大量のトロンプルイユと、画家を取り巻く人物たちの物語だ。
「僕にとって衝撃的だった『ヘンリー・ダーガーの家を大家さんが片付けしながら作品をガンガン捨てている途中に、作品のすごさに気付いた』エピソードも参考に。絵を捨てるって、美術の文脈における作品の取り扱い方ではありえないですよね。そこから、トロンプルイユを使えば、作品と鑑賞者の間だけでは終わらない、絵画へのコメディ的で演劇的な接し方ができるんじゃないかと考えた」。
メンバーの角田貴志が描いた油絵など絵画が大量に登場するという小道具や、劇団恒例の構造的な仕掛けにも注目したい。「この劇自体がトリックアートになるようなからくりを用意してます」。
(『美術手帖』2017年10月号「INFORMATION」より)