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生誕100年の節目のその先へ。「毛利武士郎と黒部」展によせて

今春、富山県の黒部市美術館で「毛利武士郎と黒部」展が開催された。作家の生誕100年に合わせて、黒部市ゆかりの作家を紹介するシリーズ「Kurobe Art Research」の第2弾でもある本展を、毛利武士郎を研究してきたメイボン尚子がレポートする。

文=メイボン尚子

黒部市美術館での「毛利武士郎と黒部」展展示風景 撮影=柳原良平

毛利武士郎生誕100年によせて

 4月15日から6月25日まで、富山県の黒部市美術館で「毛利武士郎と黒部」展が開催された。作家の生誕100年の節目にあって、黒部市にゆかりある作家を紹介するシリーズ「Kurobe Art Research」の第2弾として企画されたものだ(担当は同館学芸員の尺戸智佳子)。公立美術館で1950年代の初期作品から2000年代の晩年作品まで俯瞰的に振り返る毛利武士郎の作品展としては、1999年に新旧作合わせ105点を一挙展観してみせた富山県立近代美術館(現・富山県美術館)での個展以来、24年ぶりであった(担当は当時富山近美の普及課長だった故・柳原正樹)。

黒部市美術館での「毛利武士郎と黒部」展展示風景 撮影=柳原良平

 本展は、コンパクトな展示ながらも各時代のカギとなる作品が網羅され、作家の関心の移り変わりも動線に沿ってよくみえ、初公開となる未完成作品や図面、制作ノートなどの資料類も充実して、キリリとまとまり素晴らしかった。展覧会図録も、展示写真や時代を追っての解説もさることながら、巻末の作品・文献リストの類も今回ガツンとアップデートされていてみごたえあり。ぜひ手に取ってほしい(*1)。

黒部市美術館での「毛利武士郎と黒部」展展示風景 撮影=柳原良平

 また会期中、共催となる「シーラカンス 毛利武士郎記念館」では、前中後期と分けて関連企画展が開催された。前期は「こぶし記」展。毛利を偲んで2006年に始まり、2015年からは隔年で行われてきた、毛利や地域につながりのある作家有志によるグループ展だ。今年は全館展示、22作家が出品。中期は「武士郎の手仕事」展。毛利が七彩工芸(現・七彩)勤務時代に制作に携わった記念品やアンティーク調ランプのほか、ミケランジェロのフレスコ画《最後の審判》を “模刻” した油土、石膏、金属によるレリーフなどが紹介された。後期は安達直樹による「『かすがい』と『まる』木呼里」展。もとは大工で、いまは自然木を活かした家具をつくる安達は、毛利作品を1点所有し、それと生活する人でもある。彼はまた今回「こぶし記」出品作家の田中郁聡、野畑博とともに、一塊100kg超の鋼鉄による毛利の未完成作品2点を、三又、チェーンブロック、リフティングマグネットなど使って無事に搬入・搬出させた立役者でもある。

シーラカンス 毛利武士郎記念館での「武士郎の手仕事」展展示風景 撮影=柳原良平

毛利武士郎とは何者か?

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