2017年展覧会ベスト3
(豊田市美術館学芸員・能勢陽子)

数多く開催された2017年の展覧会のなかから、6名の有識者にそれぞれもっとも印象に残った、あるいは重要だと思う展覧会を3つ選んでもらった。今回は豊田市美術館学芸員・能勢陽子編をお届けする。

マリア・アイヒホルン ユダヤ人から不法に入手した本 Photo by Mathias Volzke

|岡﨑乾二郎の認識― 抽象の力―現実(concrete)展開する、抽象芸術の系譜

(豊田市美術館、2017年4月22日〜6月11日)

「抽象の力」(豊田市美術館)展示風景

 普通、自身が所属する館の展示はベストに選びにくい。しかし本展は、作家の岡﨑乾二郎氏による企画(担当は千葉真智子学芸員)。豊田市美術館のコレクションに、他館や個人所蔵家の作品もお借りして、19世紀末から第二次世界大戦後までを中心に、美術だけでなく、建築、音楽、文学、ダンスにまでまたがり相互に連関しあう「抽象の力」を読み取ろうとするもの。日々見慣れているはずのコレクションが、並び、向かい合う作品との関係で、新たな美術史と作品の意義を多層的に開いていく。とてもスリリングで高密度、これぞキュレーションの妙というべきもの。所蔵品は思っている以上に可能性に満ちていることを痛感した。

|ドクメンタ14

(ドイツ・カッセル、2017年6月10日〜9月17日)

ノイエ・ガレリーに展示されたロレンツァ・ベトナーのドローイングや映像、アーカイブ資料など Photo by Mathias Volzke

 さんざんな評を聞くことが多かったドクメンタ14。中心となるはずのフリデリチアヌムはやや肩透かしだったものの、そこから歩いて回れるノイエ・ギャラリーを中心とした展示は、蜘蛛の糸を張り巡らせるような巧妙な構成であった。移民や経済問題を軸に、美術品や労働の搾取、身体的特徴の分類や音楽の記譜法の対比など、より複雑な要素も含みながら、それらが隠れた歴史とパラレルに展開されていた。しかし中心地に近いもう一塊の会場は、あまりに混沌としていて落胆。それでも、国際展の惑星直列といわれた今年、作品よりキュレーションが際立ち、芸術が政治をあまりに直接的に反映し、資料がそのまま作品となる、現在の美術における問題をもっとも先鋭的に映し出す国際展であった。

|志賀理江子 ブラインドデート

(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、2017年6月10日〜9月3日)

 滅びる直前の星が放つという赤い光の中、21台のスライドプロジェクターがガシャガシャという音ともに回転している。そこに現れている場は、これまで見たことのないようなもので、しかし決して奇を衒ったというのではなく、ある率直さと熱量をまとった夢想のようにそこにあった。写真は、何より見える世界をそのまま写し出すはずなのに、それらのイメージは普段隠れて見えない真実を手触りとともに露わにするようである。「もし宗教や葬式がなかったとしたら、大切な人をどのように弔いますか?」というあまりにストレートな問いは、投げかけられた人の奥底に、衝撃とともに触れるだろう。

編集部

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