齊藤智史 ー チイサコ ー

　アジア圏を中心に近年注目される彫刻家・齊藤智史による個展「チイサコ」が、s+artsで開催される。

　齊藤は1982年長野県生まれ。2006年東京造形大学造形学部彫刻専攻卒業。楠を用いてフォルムを形成し、日本画に使われる顔料や灰などで着彩をしながら、どことなく懐かしいような、愛着が湧くような感覚が生まれる作品を制作している。

　植木屋の家に生まれ育った齊藤にとって、心のどこかに残る感動が呼び起こされる時にはつねに樹木が存在する。木彫表現を通じて、自身の周りの様々な要素がつながり、土着の文化やその地で生まれた精神を継承し、未来へ残そうとしているその作品からは、どことなく懐かしいような、愛着が湧くような感覚が生まれる。作家は、時を重ねるとともに懐古的で曖昧になる過去の記憶をたどりながら、現在の経験が重なることで得られる新たな感覚を作品に反映させ、人間の記憶のなかにある曖昧でどこか懐かしい感覚を具現化することを試み制作を続けている。

　幼心について回帰しながら表現したという本展「チイサコ」では、これまで齊藤が制作してきた作品からさらに愛らしい表情と温かみのある色彩が印象的な作品が並ぶ。また、抽象作品のシリーズ「シン」においても、偶像作品とつながりのあるような新たな試みも発表される。