EXHIBITIONS

高橋直宏 個展「standing on the balls of the feet」

2022.03.11 - 04.03

高橋直宏 個展「standing on the balls of the feet」より

高橋直宏 個展「standing on the balls of the feet」より

 EUKARYOTEは、アーティスト・高橋直宏による個展「standing on the balls of the feet」を開催する。

 高橋直宏は1991年北海道生まれ。2020年に金沢美術工芸大学大学院博士後期課程彫刻分野を修了し、現在は金沢を拠点として、主に木を素材とした人体彫刻を制作している。本展のタイトル「standing on the balls of the feet」は、日本語の「浮足」にあたり、その言葉について高橋は次のように書いている。

「物理的にも精神的にも堅実で安定した様子を『地に足をつける』という。反対に不安定で浮ついた状態を指して『浮き足立っている』という。これらはどちらも地面や足下、ひいては人間の『立つ』という行為に関わっている。ではもし立つべき地面や、立つための軸がなくなったりしたらどうだろう。重力から『浮き足立つ』ことは喜ばしいことなのか、それともずっと『地に足のつかない』悲劇となるのか」。

 高橋が主とする木彫は、その素材の重量感と、物質的制約や制作上の身体的負荷を受ける技法だ。いっぽうで3DCGやVRといった実際の空間に存在しない立体的作品がありえる現代で、高橋は必ずしも歴史と同じように、物理的空間における重力からの解放ではなく、重力や立つという行為のなかにありながらもいかに軽やかになれるかを目指しているという。

 また高橋は、ピカソの《ゲルニカ》やザッキンの《破壊された都市》などに影響を受け、凄惨な戦争がモチーフでありながら、それらに妙な軽さ(決して軽薄という意味ではない)を感じていると言う。ほかにも埴輪や土偶、アフリカの仮面といった儀式や呪いに扱われるものだが、造形にはシンプルな軽妙さがあるためにおどろおどろしさが際立つとして、作家は「この世界の現実に対してどのように切り返すかを切実に試行している」と述べている。

 こうした影響のもと、高橋の作品の特徴でもある断続的につながれた人体や、自身が手を加えたものとそれ以外の偶発的なオブジェクトの組み合わせや、立体上に線を引く平面的な表現など、私たちの持つ彫刻という概念を揺さぶる原始的で異質なかたちが生まれている。

 私たちが生きるいまは、仮想世界の発展の傍ら、戦争やパンデミックが眼前にある。重力との関係を、自身と現実との関係に重ね合わせ、どう拮抗するか模索する高橋の作品を通して、本展が現実に対し私たちにはどのような切り返す手段があるのか、そのひとつを示唆するものになればとしている。