EXHIBITIONS

松江泰治「makietaTYO」

2021.11.20 - 12.25

松江泰治 TYO 2022 2021 ©︎ TAIJI MATSUE Courtesy of TARO NASU 協力=森ビル株式会社

松江泰治 TYO 2025 2021 ©︎ TAIJI MATSUE Courtesy of TARO NASU 協力=森ビル株式会社

 東京都写真美術館で個展「松江泰治 マキエタCC」(~2022年1月23日)が開催中の写真家・松江泰治。松江にとっては東京の公立美術館での初個展となるこの展覧会にあわせ、TARO NASUでは、東京の都市模型を被写体とした約20点の写真で構成される新作「makietaTYO」を展示する。本シリーズの制作には、森ビル株式会社が協力。

 松江は1963年東京都生まれ。87年東京大学理学部地理学科卒業。画面に地平線や空を含めない、被写体に影が生じない順光で撮影するといった撮影のルールを設け、世界各地の地表を独自の視点でとらえるとともに、写真の本質を問い直すような平面性を生み出してきた。

「makieta」シリーズの、マキエタとはポーランド語で模型やモデル、ジオラマをさす言葉。2016年にポーランド取材に出かけた松江は、この地で都市の大型模型を見て、改めてその被写体としての可能性を感じたという。現在、東京都写真美術館での個展「マキエタCC」には、その後制作された大型模型の写真も展示されている。

 本展で紹介する新作「makietaTYO」の「撮影地」として選ばれたのは、1000分の1のサイズに縮小された東京の巨大な都市模型(ジオラマ)。森ビル株式会社が制作し続けてきたこの「東京の模型」は港区を中心に都内13区のいまが正確に再現されている。

 鑑賞者の身長が160センチメートルであれば、上空約1600メートルの高さから眺める東京の姿が眼下に広がる設定となっており、撮影時の松江がしたように都市模型付設の台にのぼれば、さらに500メートル高い空からの眺めを体験できる。風景を「地表の情報の集積」ととらえ、独自の技術を駆使してその膨大な情報量を「地表の標本」として精緻な写真に再現してきた松江にとって、この細部に至るまで精巧に作りこまれた巨大模型は魅力的な被写体だったという。

 航空写真でしか撮影できないはずのスケールで、航空写真では不可能な高解像度の写真を撮影する。ファインダー越しにとらえるのは、密集する住宅群や商店街とその間に埋め込まれたかのような細い路地や緑地、林立する高層ビルと周囲の高速道路、そして大きく東京を横切っていく鉄道網。 視座の高さゆえに本来は失われるはずの細かな情報までも、模型の撮影という手法によって精確に再現したいわばスケールとディテールの融合がそこにはある。松江作品でしか見ることのできない東京が、見るものをさらなる奥へ、巨大都市東京の心奥へと誘っていく。