EXHIBITIONS

石田恵嗣「FLOW」

石田恵嗣 Scene#004 2021

石田恵嗣 Scene#001 2021

石田恵嗣 Scene#002 2021

石田恵嗣 Scene#003 2021

 アートフロントギャラリーでは、ヨーロッパで活動するアーティスト・石田恵嗣の日本での初個展「FLOW」を開催中だ。

 石田は1975年千葉県生まれ。日本で大学を卒業後、一般企業に勤めたが、かねてより渇望を抱いていたモノづくりの道をもとめて2006年からイギリスに留学。09年にチェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインを卒業、13年にロイヤル・カレッジ・オブ・アートを修了した。その後も、2年間ドイツに滞在しながらロンドンのギャラリーからアートフェアに出展するなどヨーロッパを中心に作家活動を続けている。

 石田の描くイメージは、部分的に1950年代のイギリスコミックを思い起こさせる。一見、子供用絵本の挿絵のような絵画はどこか懐かしく素朴な印象を持つが、よく見ると現実には起こりえない不思議な物語性が見てとれる。また同時に、画面上には絵画としての色やかたち、描き方の探求が見られ、たんなる絵本にはない、荒々しい筆跡やドローイングのような線も魅力のひとつだ。

 石田の絵画のもっとも顕著な特徴はイメージの並置にある。一見、ノスタルジックな感じを漂わせる独特なイメージは、50〜70年代のイギリスなどの絵本にルーツを持つ。子供用の絵本のストーリーにおける状況をそのままキャンバスの上に移し替え、そこにまた別のリファレンスからもたらされたイメージ(オリジナルとは違うシチュエーション)を用いこれに並置させる。この脈絡のない並置が、そのキャラクターと状況にまったく異なる物語を生み出すこととなる。

 石田のイメージのもとはあくまで、絵本であり現実ではない。誰かのつくり出した何かしらのストーリーや状況を、ほかのもうひとつの切り離された世界感と並列し、知っているようで知らない世界をつくることは、従来の東西の美術や小説よりもむしろアニメやマンガ、またはSFに近く、主にシュルレアリストが、精神分析や無意識を引き出そうとしたシュルレアリスムとは違う現代性が見てとれる。

 本展では大判絵画2点を含む新作12点を発表する。石田の新しい試みは、複数枚の絵画を組み合わせて置くことで、4コマのイメージをつくり、絵画1枚で見てとれるシチュエーションに時間を加え、さらに複雑な物語性を呼び込むこと。あくまで静止画である絵画はこれにより映像的な時間の流れの側面もはらむようになり、そのスト ーリー展開は見る者の持つ経験によって異なる変化をつくり出すことになるだろう。