EXHIBITIONS

柳幸典「Wandering Position 1988-2021」

2021.03.06 - 04.03

柳幸典 Wandering Position 「第4回リヨン・ビエンナーレ」 トニー・ガルニエ・ホール、スイス 1997
© Yukinori Yanagi Courtesy of ANOMALY

柳幸典 Wandering Position 制作風景 2021 © Yukinori Yanagi Courtesy of ANOMALY

柳幸典 ザ・アントフォローイング・プラン(「ハモンド・ホール・プロジェクト」 )
イェール大学美術学部彫刻科ハモンド・ホール、コネチカット、アメリカ 1988
© Yukinori Yanagi Courtesy of ANOMALY

 美術家・柳幸典の個展「Wandering Position 1988-2021」がANOMALYで開催される。会期は3月6日~4月3日。

 柳は1959年福岡県生まれ。イェール大学大学院美術学部彫刻家修了。1993年、第45回ヴェネチア・ビエンナーレに選ばれ、アペルト部門を日本人で初めて受賞する。以後ニューヨークにスタジオを構え、1996年サンパウロ・ビエンナーレ、1997年ビエンナーレ・ド・リヨンなど多くの国際展に招待される。作品は、ニューヨーク近代美術館、イギリスのテート・ギャラリーなど多くの美術館に収蔵。ユーモアと社会性を帯びた挑発的作品内容はつねに物議を醸し、その創作行動は美術の枠に納まらない。

 Wandering Position(さまよえる位置)シリーズは、作家としてのスタート地点のコンセプトであり、これまで作品名や展覧会名として使用されてきた。これらの作品群は、柳がイェール大学大学院1年目の1988年、自分は何者かを模索し始めた時期に、アトリエの床を這う蟻の跡を追う《アント・フォローイング・プラン》から始まった。その後、蟻が砂を運び移動することにより、砂絵で描かれた国旗や貨幣という人間のつくったシステムを形骸化していく、柳のアイコニックな作品《アントファーム・シリーズ》へと発展した重要な作品だ。

 本展では、一匹の蟻を放ちひたすら追いかけ、赤いチョークでその痕跡をたどる同シリーズより、数メートルに及ぶ大型の紙に描かれた新作を発表。合わせて、1980〜90年代にアメリカで制作された貴重な作品を展示する。

 パンデミック後の状況のなかで、柳の言葉のように「移動、交通、位置をずらしていくことで見えてくる地平へ」としなやかに、したたかに「wander(さまよう)」ことを考える。気の遠くなるような距離と時間を示す赤い命の痕に、柳幸典という作家の視線の先が、いまだからこそはっきりとした輪郭を伴って見えてくるかもしれない。