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浅見貴子 - 彼方 / 此方

浅見貴子 蘇芳 2016

 浅見貴子は多摩美術大学で日本画を専攻し、埼玉県の秩父を拠点に活動している。アトリエのある日本家屋は殖産興業の波にのって繊維業・織物業がこの地に栄えた時代を今に伝え、庭には松・梅・柿・山椒の木が並んでいる。浅見は幼少の頃からよく見知っているこれらの木々を繰り返しデッサンし、紙の上にあるべき姿の構想を十分に練った上で、たっぷり墨をふくませた筆を転がすようにして空間をつくっていく。黒点の連なりは葉叢をなし、枝と枝の間に存在する空気や光をはらみながら力強い樹木を生みだす。主に紙の裏から描いてその滲みの効果を表から確認する独特の手法によって、具象とも抽象ともいえる画面が立ち上がってくる。

 生命力にあふれた自然の姿は、国内外に限らず多くのファンを集めてきた。2001年12月にはアメリカ同時多発テロの傷痕も生々しいニューヨークで個展を敢行。東日本大震災はちょうど数日後のアートフロントギャラリーでの展覧会に向け新作を描いている時だった。停電し、交通網も遮断される中で逆に憑かれたように筆を動かしたという。2006年にはアートモスクワに参加、その後文化庁新進芸術家海外研究員としてNYのISCPでレジデンスを行い、ヴァーモントスタジオセンターでも研鑚を積むなど外界に目を開いた浅見は、そうした刺激をここ数年、制作活動のなかで熟成してきました。最近では南仏やスペインの個人コレクションにも作品がはいり、浅見の特徴的な作風のイメージはネット上でも多く検索され様々な国を駆け巡っている。

 日本画の継承者であると同時に新たな地平の開拓者でもある浅見は、紙と墨、顔料への強いこだわりをもっている。墨の染み込む速度がそのまま作風を決定することもあって、たとえば描かれたモチーフによっても白麻紙、雲肌麻紙、大濱紙などの種別を選びとり、蘇芳を描けば蘇芳からとった顔料を挿し色のように使っている。ある素材の性質を最大限引き出そうとする制作態度には、多摩美時代に講義を受けたという李禹煥の影響などもあるのかもしれない。