EXHIBITIONS

池田光弘「dawn」

池田光弘 dawn Photo by Yuki Moriya

 複雑な知覚構造や体験を作品化するペインター、池田光弘の個展「dawn」がSatoko Oe Contemporaryで開催中。会期は11月28日まで。

 池田は1978年北海道生まれ。2004年武蔵野美術大学油絵学科卒業、06年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了。複雑で説明不能な知覚構造や体験を、周到にプランを練り、レイヤーを幾重にも重ね描く。その光景は、ただの場の記録としてではなく、まるで場の記憶を擁する一編の小説のように、モチーフや絵具、主題などが複雑に絡み合い紡がれている。そして、散りばめられた絵具の欠片を拾い集め、断片的に記憶している風景を選択し、上澄みを掬い取ることなどによって絵画を成り立たせている。

 繰り返す行為の積み重ねは、作品の豊かさにつながると信じ、制作を行う池田。絵画にどのような展開が生まれるかを予測しつつ、時に現象をしばし観察、時に奔放な絵具の動きに翻弄されながらも、終着点を探す。その手は、終わりからまた新たな始まりへと導かれ、まっさらなキャンバスを張り、新しい物語に向き合う。

 本展では、表題作《dawn》を中心に、4〜6点の新作を展示。タイトルの「dawn」は「夜明け」を指し、同時に「始まり」「兆し」などの意味をもつ。先行きが不透明な時代において、本展が神話の原初において語られるような始まりを告げ、未来を照らし出す機会となればとしている。

「『dawn』 光が差し込み、物事の形象がぼんやりと浮かび上がる。予感でしかなかったありように徐々に輪郭が与えられ、それも再び眠りのなかに溶けてゆく。輪郭は何度も立ち上がっては溶解を繰り返し、そのなかで形象が浮上する。

 物語ることや想像すること、思考することなどの始まりはつねにこのような微睡のなかにある。その外形をすぐさま明確なものとするのではなく、未分化なありようをひとつずつゆっくりと眺め、それらを微睡のなかでつなげてゆく。 その過程は、物事に確たるかたちを与え捕らえることではなく、ありようの可能性を遍在させる(池田光弘)」。