EXHIBITIONS

兼子裕代「APPEARANCE」

2020.07.18 - 08.29

兼子裕代 Muema’s House Music © Hiroyo Kaneko Courtesy of The Third Gallery Aya

 カリフォルニアを拠点に活動する写真家・兼子裕代の個展がPOETIC SCAPEで開催されている。

 兼子は青森県生まれ。明治学院大学文学部フランス文学科卒業後、会社員を経てイギリス・ロンドンで写真を学ぶ。1998年より写真家、ライターとして活動。2003年サンフランシスコ・アート・インスティチュート大学院に留学。東京国立近代美術館、サンフランシスコ現代美術館、ニコンサロン、サンフランシスコ・カメラワークなどで作品を発表する。09年に家族の入浴を撮った「センチメンタル・エデュケーション」でアメリカ新人作家に贈られるサンタフェ写真賞を受賞。サンフランシスコ現代美術館、フィラデルフィア美術館、東京国立近代美術館に作品が所蔵されている。現在カリフォルニア州オークランド在住。

 2020年1月から大阪The Third Gallery Ayaで開催された同展に続く本展では、一部構成を変えて、兼子が2010年から取り組んできた、歌を歌う人を撮影した「APPEARANCE」シリーズを展示する。

 他人の前で歌を歌うこと、その自分を撮影されること。いずれも普通は緊張や恥ずかしさを伴うものだが、「APPEARANCE」に登場する人々は、撮影者である兼子を信頼し、その無防備とも言える姿をレンズの前で隠そうとしない。被写体が好きな歌を歌うことで、自我という壁が融解し、解放された表情や身振りが立ち現れる。それと同時に、意識は眼前ではない、別の世界とつながっているようにも見える。

「歌う人」は人種・性別・年齢に関係なく、誰もが尊厳に満ちている。その姿は見る者に、信仰というよりもっとプリミティヴな、誰からも強要されることのない祈りを思い起こさせる。日々過剰な情報と、暴力的ともいえる刺激に囲まれて生きている私たちが、「APPEARANCE」のなかに人と世界との幸福な関係を見る時、聞こえるはずのない歌が写真から波動として伝わってくるかもしれない。