EXHIBITIONS

泉太郎「コンパクトストラクチャーの夜明け」

2020.02.29 - 04.25

©︎ Taro Izumi Courtesy of Take Ninagawa, Tokyo

 2017年のパレ・ド・トーキョーでの個展を成功に収め、また同年に金沢21世紀美術館で新たな展開を見せたアーティストの泉太郎。今年6月のティンゲリー美術館(スイス)での個展をまえに、Take Ninagawaで新作の映像作品を発表する。

 泉は1976年奈良県生まれ。化学者の父親の影響を受け育つ。多摩美術大学大学院美術研究科を修了する頃には映像に魅了され、立体と映像を組み合わせた作品で同世代を代表する作家となる。主な個展に、「突然の子供」(金沢21世紀美術館、2017)、「Pan」(パレ・ド・トーキョー、パリ、2017)、「No Night, Day Neither」(The Nassauischer Kunstverein、ヴィースバーデン、2014)、「こねる」(神奈川県民ホールギャラリー、2010)など。そのほか、金沢21世紀美術館、国立国際美術館、東京国立近代美術館など数多くの美術館の企画展に参加してきた。

 本展で出品される《コンパクトストラクチャー》は、様々な場所での展覧会に際し宿泊していたホテルの部屋にて、作家がひとりで制作していた実践的な実験のひとつ。

《コンパクトストラクチャー》について、「顕微鏡や望遠鏡の発明は細部を見ること、視覚的に物事に近づくことを可能にしたし、私たちはいまだにカメラのレンズを通して世界との距離を測り続けています。そして映像は編集され続けていて、映画はカットの数だけ異なる時間に撮影された映像を列べることで辻褄を合わせます。それに対して今回の作品は撮影と編集を同時に行うような方法でつくっており、映像のなかにはいくつかの時間が並走しています」と作家は話す。

 泉は展覧会の開催ごとに、制作チームを新たにつくることからスタートする、流動的な活動を展開。それに対して、編集機材を介在させないフィジカルな編集方法により制作された《コンパクトストラクチャー》は、様々な方向に向けて思考を並走させる作家の思考法を示したドローイングともいえる。それと同時に泉は「絵画は動いていないと言えるのか」と問いかけ、絵画が置かれた環境について、絵画鑑賞の際に鑑賞者の意識から省かれているような部分にも着目している。

 本展は、「プロセスの扱いについて考えることは映像や画像と人間の関係について考えることにつながる」と泉が言うように、「見ること」と「つくること」の関係についてのいくつかの実験を通して、作家の思考プロセスを読み解く機会となるだろう。