EXHIBITIONS

松川朋奈

Blind

松川朋奈 私にとっては、それがプライドみたいなものなのよ © the Artist, courtesy of Yuka Tsuruno Gallery

 松川朋奈は一貫して、傷ついたハイヒールや脱ぎ捨てられた服、身体の傷など、日常生活に残された痕跡に表れる人間性や人間の内面に関心を寄せる。松川に特徴的な写実的な絵画は、一般的にあまりよくない印象を持つ傷ともいえる痕跡を、フラットで美しい表面上に再構成することで別の価値観への転換を施行。近年は、松川と同世代の女性たちへのインタビューを重ねながら、その中で印象に残ったフレーズを作品の主題およびタイトルとし、絵画にとどまらず、鏡を使ったインスタレーションなど新たな表現方法にも挑戦している。

 本展では、都会に住む女性のインタビューをもとに構成した新作の絵画とともに、鏡を使った新たなインスタレーション作品を発表。下着の跡や化粧くずれ、コーヒーの染みなどの形跡に象徴されるように、彼女たちは一見すると孤独で失望の人生の中にいると認識されがちだ。しかし、インタビューを通して松川が感じたことは、その人生を生きる一人一人が、目の前の人生に直面しながらも、生きる意味を探求し人生への希望を持ち続けていることだった。「盲目」という意味であるタイトル「Blind」は、彼女たちの「内側」と社会からの視線である「外側」に大きな隔たりがあり、お互いに盲目的に存在しているという意味が込められている。

 また、個人においても「内側」と「外側」の視線がある。描かれた人物たちの外見ではなく内面をとらえようとしてきた松川の絵画と同様に、新たなシリーズとして発展してきている鏡のインスタレーションは、その鏡に映る鑑賞者自身もその視線が交錯する空間へと投げ込まれる。本展において松川は、「内側」と「外側」の境界を巡って、その盲目さを受け入れながらも、内側と外側を行き来し、あるいは反転するような出会いを生み出すことを試みる。