土屋信子

　アンテナやプラスチック・チューブ、吊り下がったフェルト、ガラスのビーカーなど、多くは廃品である素材との偶然の出会いから、詩的な精密さで作品を制作する土屋信子。SCAI THE BATHHOUSEでは7年ぶりとなる個展を開催する。

　直感に突き動かされた原始的な発明のように、また未来のノスタルジーを育むSF小説の1ページのように立ち上がる土屋の作品。想像力の源として、土屋は地下に栄える「魚文明」なるものを想定し、様々なアプローチを展開してきた。2017年、駒込倉庫で行った個展では、メキシコのフードマーケットでのパフォーマンスの体験をもとに、魚たちからのプレゼント《月に行けるゼリー》や、サボテンの毛のような《ふわふわ飴》のおもてなしで、プライベートスペースを創作。素材の質感にまで行きわたるユーモアが、あらゆる人々が共有する記憶や感覚をくすぐる、圧倒的なフィクション世界を形成した。

　本展では、「月」という身近な未知に到達するための数々の秘策が、展示空間に惜しげなく放たれる。底知れない宇宙の独創的なストーリーを展開する作品は、危険な化学実験のように、「いろいろな考え方」を調合して爆発する無限の可能性を垣間みせるだろう。