EXHIBITIONS

尹熙倉「正方形の」

GALLERY CAPTION
2024.11.02 - 12.01

尹熙倉 何か #932 2014 陶粉、アクリルメディウム、木パネル 72.7 × 72.7 cm

 ギャラリーキャプションで「尹熙倉展-正方形の」が開催されている。

 尹煕倉(ユンヒチャン)は1963年兵庫県生まれ。1993年に岐阜市長良河畔の玉井町筋で行った、格子戸が残る民家の軒先に陶立体を設置したアートプロジェクト「呼吸する壁」展以来、同廊と関わりの深い作家だ。日本で生まれ育った尹は、1988年に多摩美術大学大学院を修了した後、手びねりで四角く整えられた陶製のミニマルな立体を空間に配する「そこに在るもの」シリーズや、その立体を砕いて粉にした「陶粉」による静謐な絵画《何か》《Sand River》などを手がけながら、国内外で活動を続けている。

 尹の表現は、陶を素材として、場所や空間との関わりや、手でつくることへの意味づけ、ものをつくることの合理性と不合理といったテーマによって複層的に構成されているが、作品の多くに、矩形がモチーフとして用いられている。それについて尹は、2010年に大英博物館(イギリス)などで行った、四角いものの調査・研究を経て、人類が生きるためにものをつくろうとする、その営みの意力を、矩形に感じるようになったと語っている。

 矩形のなかでも、正方形や立方体は合理的な均衡を持った特別な存在であり、絵画においても正方形の画面は、描く側と見る側に特別な取り組みが求められると尹はとらえている。テレビや映画のスクリーンのように、左右に広がる人間の視界にあわせた長方形に対し、人の目の動きを制限するかのような正方形に、私たちは無意識のうちに窮屈な思いを強いられているかもしれない。人間の観念がつくり出した純粋なこの形を用いることは、ある意味、不自然な取り組みであると言えるのかもしれないが、尹はそこに肯定的な意味を見出す。

 本展では、正方形にテーマを絞り、初期から現在までに制作された陶粉画のなかから正方形の画面に描かれたものと、新作の陶の立方体作品を並置することで、尹の活動を正方形から切り取り、眺めるものだ。それは、正方形を介した、描く側と見る側の不自然な取り組みのなかに、ものをつくること、そして見ることへの人間の欲求を探る機会となる。