EXHIBITIONS

ミーヨン個展「KUU」

©️ Mi-Yeon

 コミュニケーションギャラリーふげん社で、ミーヨンの個展「KUU」が開催されている。

 ミーヨンは韓国ソウル生まれ。国立ソウル産業大学でデザインを学んだ後、1988年に渡仏し、パリの ICART PHOTO で写真を学ぶ。91年から東京に移住。いくつかの著作を上梓した後、東日本大震災や親友の死などをきっかけに写真活動を再開し、路上に生える1本の草の行く末を追った『よもぎ草子』(窓社、2014)や、個々の存在の輪郭の不確かさをテーマにした『Alone Together』(Kaya books、2014)、『I and Thou』(私家版、2015)などを発表する。現在まで、生と死、自己と他者など、世界に対する問いや哲学的な思索をベースに、写真と文章を通し表現している。

 本展は、今年9月にフランスはアルルのアンヌ・クレルグ・ギャラリー(Anne ClergueGalerie)にて発表した「色即是空」をテーマに撮影したアーカイバル・ピグメント・プリント約30点を展示する。本作のタイトルは、仏教の教理である「色即是空」が由来。世界とは不変のものではなく、絶え間ない連続のなかにあって、人々が見ているすべてのものは、条件が満ちた時に顕現した姿であり、すべては仮のかたちであるという教えだ。

 ミーヨンが写したのは、空に浮かぶシャボン玉、山の稜線の切れ端、古いトタンの家、交差点に吹き溜まる落ち葉など、とるに足らないものだが、ミーヨンがそれらのシーンと密やかに出会った時の情緒が感じられると同時に、それらの光景がいまはもうこの世に無いことを予感させる。永遠に続く時間のなかで、その一瞬をとらえなければその風景は無かったものになる、写真というプライベートな営為の尊さに改めて気づかされるいっぽうで、それは決して写真家だけに与えられた特別な役割ではなく、ひとり一人の前に立ち現れた世界の瞬きを知覚し、反応し、描写するという、人間の営みそのものであるということも、ミーヨンの写真は伝えている。