EXHIBITIONS

「訪問者」クリスチャン・ヒダカ&タケシ・ムラタ展

左:クリスチャン・ヒダカ Tambour Ancien  2021 Courtesy of the artist and galerie Michel Rein Photo by Hugard & Vanoverschelde
右:タケシ・ムラタ Still from Larry Loop #7 2022 Collaboration with Christopher Rutledge

クリスチャン・ヒダカ Siparium 2020
Courtesy of the artist and galerie Michel Rein
Photo by Vincent Everarts

タケシ・ムラタ Larry Cove 2021
Sound by Black Dice

 銀座メゾンエルメス フォーラムでは、クリスチャン・ヒダカとタケシ・ムラタによる2人展「訪問者」が開催されている。

 クリスチャン・ヒダカは1977年千葉県野田市生まれ、ロンドンを拠点に活動。いっぽうタケシ・ムラタは1974年シカゴ生まれ、現在はロサンゼルスを拠点に活動。ふたりは日本の血をひきながらも、英語、米語圏の文化のなかで育った。そのまなざしは、日本とある一定の距離を持った訪問者のものといえる。

 ヒダカは、絵画を通じて、劇場や建築、西洋の絵画史への参照を特徴とした制作を続けてきた。とくに、ルネサンスの思想や芸術への強い憧憬は、遠近法や幾何学的な空間記述といった科学的な技術への着目だけでなく、異教や魔術といった古代思想との関連も探求のテーマとなっている。近年は、絵画と劇場の類似性をだまし絵のような入れ子式の構造へと発展させ、古今東西の様々な要素が共存する奇妙な宇宙を描き出している。

 ムラタは、主にデジタル・メディアを用いて、映像作品や立体作品などで独自のリアリズムを追求。ムラタにとって、現実とは流動的なもので、分解、溶解、消滅、オーバーラップといったCGI技術の「ディゾルヴ」に似たものであるという。初期のアニメーションであるゾートロープや、オンラインで手に入るDIYのチュートリアルなどからつくられたCG画像などは、人工的なモノたちは古典的なモチーフをまといながらささやかな倦怠感を醸し出している。

 本展は「訪問者」の視点とともに、ふたりのナラティブがつくり上げる世界を散策し、絵画やCG画像、映像などのなかで反響するハイブリッドなリアリティについて考察する。

 ヒダカは、空間をシンメトリーに等分し、ピカソのアルルカン、フラアンジェリコのディテール、スカルパのフレーム、カービーのダイアグラムなどが反復する時空を超えた不思議な散策を、並行する戯曲のように提案する。いっぽうムラタは本展に際し、最新の技術であるWeb3.0やNFTによってもたらされるメタ世界への興味から、バスケット・ボールをする「ラリー」という犬の映像作品を制作。液体シミュレーターでレンダリングされたラリーは、彫刻のように見えるが、メタ世界にしか存在しない、バーチャルなムラタの自画像としても示される。