EXHIBITIONS

中里斉「1968-1971 東京」

2022.09.24 - 10.22

左から、中里斉《用》(1971)、「第10回日本現代美術展」(東京都美術館、1971)展示風景

 ARTCOURT Galleryは、中里斉(なかざと・ひとし、1936〜2010)の個展「1968-1971 東京」を開催する。

 東京の町田市に生まれた中里は、1960年に多摩美術大学油彩科を卒業後、62年に渡米。ウィスコンシン大学大学院に在籍中、版画やシステム工学の方法論に触発され、抽象絵画の道へと進んだ。68年から71年の日本への一時的な帰国を経て再渡米して以後、ニューヨークを拠点に作家活動を行い、教鞭をとったペンシルヴェニア大学大学院で実験的な版画制作を行うとともに、主軸とする絵画の制作に版画の思考法を援用しながら平面における新たな表現の可能性を追求した。

 生涯を通じて理知的な線と鮮やかな色面による抽象性を貫いた中里。50年代から60年代にアメリカで隆盛したカラーフィールド・ペインティングの流れを汲む作家として知られるが、そのキャリア初期にあたる帰国中の3年間は、モノクロームの直線のみで構成された作品を継続的に発表していた。

 中里のモノクロームの直線からなる作品は、当時世界的な広がりを見せた既成の価値観に対する抵抗の気運にふれるなかで、自身の制作態度を批判的に検証し、絵画を取り巻く既存の枠組みを解体すること、さらにはアメリカで学んだシステマチックな制作理論を取り入れることで生み出された独自の表現であると同時に、線と色面によるその後の中里の作品展開の原点ともなった。

「なぜ絵を描くのか」「既存の絵の概念を否定した絵とは何か」という根源的な主題に、中里は美術家として、また、社会に生きるひとりの人間として、生涯を通じて向き合い続けた。それはまた、絵画と版画という2つのメディア、そして、日本とアメリカ、日本語と英語という異なる文化・言語的背景に身を置いた作家が、双方の特性と差異を照らし合わせることで独自の造形言語を組み立て、それを基盤とする創造行為によって自身の生活を方向づけていこうとする営みでもあり、そこには、つねに自らの居場所を相対化し、目の前の世界について別の可能性を想像しようとする、知性と好奇心に富んだ態度が通底している。

 本展は、中里の日本での12年ぶりの個展であり、帰国中の初期作品をまとめて紹介する初めての機会。また、フォーマリズム理論を越えて色面抽象の可能性を模索した70年代から80年代にかけての作品とともにそれらを通観することで、中里の表現の本質と美術史における意義を改めて探る。

 なお東京のMEMでも「中里斉展」(~10月16日)が開催されている。