EXHIBITIONS

測鉛をおろす

中桐聡美 山田真実

中桐聡美 tide me over 2021

山田真実 鯉のぼり(部分) 2020

 アーティスト・中桐聡美と山田真実による2人展「測鉛をおろす」が、京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAで開催されている。

 中桐(1995年岡山県生まれ)と山田(1995年大阪府生まれ)はともに、2020年に京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程を修了。中桐は現在、瀬戸内海を臨む場所にアトリエを構えて制作を行い、いっぽう山田は琵琶湖の側でものづくりをしている。

 版画を媒体に表現する2人は、版画のプロセスが「境界」を越える行為に極めて近いものではないかと考えている。「シルクスクリーンでは、刷りによってインクが版を越えることでイメージが現れ、木版画では和紙と版木とが接しながら、墨によって互いの内部へ侵食し合うようにイメージが摺りとられます。何かについて理解しようとするために、まずそれらと自身を隔てる『境界』を意識し、それを越えて外側へ向かうのだとすると、外と内とを区別する過程で、内側である自身について改めて考える必要があります。この外と内との往還に、版画との共通点を見出しているのです(中桐聡美・山田真実、本展ステイトメントより)」。

 本展の「測鉛をおろす」というタイトルは、この「境界」を越えることによって生まれる流動性と、互いに拠点とする瀬戸内海/琵琶湖という水辺の生活環境とをつなぐ言葉としてつけられた。「測鉛をおろす」とは、綱の先に鉛のおもりをつけた「測鉛」を海に投げ入れて水の深さを測ることを指す。

 中桐と山田は制作のなかで、船上にいるかのように揺れ動く自身との関係性を考えながら、海面にたとえられた「境界」を越えたその先について知ろうと試みてきた。それぞれの行為の痕跡を並べてみた時、そこにまた「境界」があらわれ、新たな気づきが生まれる。

  2人は本展を、こうしてあらわになったいくつもの「境界」へ触れる知覚装置ととらえ、そこに示された「境界」を意識することで、私たち鑑賞者自身にとっての新たな海底への道も開かれるだろうと予感している。