EXHIBITIONS

菅亮平 個展「K 15-30D」

広島芸術センター
2022.08.06 - 08.15

菅亮平 K 15-30D / Paint 2022

菅亮平 K 15-30D / Study8 2022

菅亮平 K 15-30D / Study4 2022

 広島市在住の作家・菅亮平の約3年ぶりとなる新作個展「K 15-30D」が、広島芸術センターで開催される。

 菅は1983年愛媛県生まれ。主に美術館やギャラリーの展示空間それ自体を題材とした、写真作品や映像作品で知られる。2013年以降はドイツに滞在し、世界大戦の悲劇や喪失を空白の空間をもって指示する、戦後西洋美術史における「空虚(ヴォイド)」の表象の系譜に関心を寄せてきた。その後、2020年に広島に移住した菅は、世界で初めて原子爆弾が投下された広島の歴史性を踏まえて、アジアの戦後美術史における世界大戦への応答に関心を向け、現在に至るまで「ヒロシマ」の表象についてのリサーチに取り組んでいる。

 そうしたリサーチの過程のなかで菅は、2020年から2021年に行われた、5回目となる原爆ドームの保存工事において、ドーム部分のオリジナル鋼材の補修に用いる塗料の選定に際し、被曝当時の色彩を再現する試みが初めて行われたことに着目した。その後、保存工事の経緯や関係資料の追跡調査を行った菅は、実際に保存工事で用いられた塗料「K 15-30D」を入手し、2021年からその塗料を用いた絵画を制作している。

「K 15-30D」を用いた絵画作品では、特定の形象は描かれておらず、モノクロームの色面のなかにわずかに染みや調子が読み取れるだけだ。このアプローチにおいては、素材となる塗料自体が同時に作品の主題でもあるため、色材としての塗料の自律的な運動や現象を引き出すことを意図しているといえるだろう。また、視界を覆い尽くすほどに巨大なサイズで制作されるそれらの絵画は、ポスト抽象表現主義におけるカラーフィールド・ペインティングの形式を喚起させる。

 今回「K 15-30D」のシリーズ作品は、広島原爆投下から77年目にあたる2022年8月6日と、太平洋戦争の終戦記念日である8月15日の期間に発表される。

 ロシアによるウクライナ侵攻が続くいま、本展で菅が提示する作品は、人類史における様々な悲劇に対して、今日を生きる私たちがいかに応答し、またどのように継承していけるのかという、想起の芸術の在り方について再考を促す契機となるだろう。

 また会期中には、岡村幸宣(原爆の図丸木美術館学芸員)を迎えたトーク「戦後77年の非核芸術の系譜から」を実施し、本展における菅の試みについて議論を耕す機会を設ける。