Vol.77 No.1107
2025年10月号 特集「加藤泉」
人のかたちをした「世界」を描く
現代の日本を代表する画家のひとり、加藤泉。1990年代末より活動をはじめ、「人がた」をモチーフに、絵画、木彫、ソフトビニール、石、プラモデル、布などの多様なメディウムを用いて作品を制作し世界各地で発表するなど、その国際的な評価は高い。
その加藤作品のほぼすべてに「人がた」のイメージが現れる。そして、その表現は素材との対話やマテリアルの検証などを通してつねに進化と展開を続けている。この自己模倣にとどまることのない加藤の思考をかたちづくるものとは何か。そして「人がた」を通して彼が描こうとしているものとは何か。
2025年7月、故郷・島根県で開催された大規模個展「加藤泉 何者かへの道」は、高校時代の油彩から最新作まで200点以上を網羅し、40年にわたるその歩みを展観するものとなった。この後、国際芸術祭「あいち2025」(9月13日〜11月30日)、ペロタン・ソウルでの個展(8月26日〜10月25日)と次々に発表の機会が控えている、その多忙な制作の合間を縫って、連日スタジオで作家への取材を行った。
企画においては、加藤の「作品制作の方法論」と 「制作以外の側面」の両方を見せていくという、 レコード盤のA 面B面のような構成を企図した。同世代のペインター法貴信也との対談をはじめ、キュレーター、批評家、研究者によるインタビューや論考を通して加藤の絵画構築の理路や思想を多角的に浮かび上がらせていく。いっぽうで、思想や原体験を紐解いたキーワード記事やバンド活動を追った音楽論では、加藤の人間的な魅力にも迫っている。そこからは、加藤泉のA面とB面は分かち難く結びついており、まさに表裏一体となっていることがわかるだろう。本特集から、加藤泉が絵画を描くことで刻んでいく道行きの、これまでとこれからを辿ってみたい。
