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コンセプチュアル・アート

Conceptual Art

「概念芸術」の意味。従来的なメディウムに代わる多様かつ新しい素材や手法の摂取を伴いつつ、1960年代より顕著となった動向を指す。ニューヨーク・スクール/抽象表現主義のロマン主義的な側面に象徴化されるような、創造的個人としての表現主体やその作品の唯一性といった美学的モデルへの、あるいは「絵画」/「彫刻」というヨーロッパ的伝統に連なるカテゴリーへの反発が、アメリカにおいてコンセプチュアル・アートの出現を準備する一因となった。絵画的な視覚性からの脱却と、それにともなう言語や情報媒体などの「読まれるもの」の対抗的な導入は、この動向の主要な特徴である。既存の芸術への批評的視点ゆえ、こうしたアプローチをはじめとするコンセプチュアル・アートの手法は、たんに様式上の批判・変革であるにとどまらず、美術館や市場、美術雑誌、美術史といったアートワールドの諸体制をめぐる制度批判的・分析的な思考をも前景化させることとなった。

 また、複写技術の使用や、地図、写真、広告、雑誌などの複製印刷物、既製品の導入は、メディウム概念の拡張であるとともに、唯一性の解体という(反)美学的な関心に呼応するものでもあり、テレビやラジオといった情報メディアの通信ネットワークによる脱個人化、相互接続のヴィジョンもまた、こうした脈絡において着目された。ただしそのような水平性の志向は、従来の美的枠組みの解体を果たす一方で、芸術資本や情報のグローバルな流通形式との親和性を備えるものでもあり、コンセプチュアル・アートの抱える両義的かつ今日的な側面を指し示している。

文=勝俣涼

参考文献
Conceptual art and the politics of publicity(アレクサンダー・アルベロ著、The MIT Press、2003)