有識者が選ぶ2023年の展覧会ベスト3:慶野結香(国際芸術センター青森[ACAC]学芸員)

数多く開催された2023年の展覧会のなかから、有識者にそれぞれもっとも印象に残った、あるいは重要だと思う展覧会を3つ選んでもらった。今回は国際芸術センター青森[ACAC]学芸員の慶野結香による、東北地方で2023年に開催されたベスト展覧会をお届けする。

文=慶野結香

「みちのく いとしい仏たち」展(岩手県立美術館)展示風景より 提供=岩手県立美術館
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「みちのく いとしい仏たち」展(岩手県立美術館/4月8日~5月21日)

「みちのく いとしい仏たち」展(岩手県立美術館)展示風景より 提供=岩手県立美術館

 長年、東北地方の民間仏を調査・研究してきた須藤弘敏(弘前大学名誉教授)監修のもと、青森および岩手、秋田にのこる、廃仏毀釈以前につくられた仏像を集めた展覧会。ものの見方を規定してしまう恐れもある、展覧会タイトルの「いとしい」であるが、これらの仏像の背景にある、飢饉などに由来する苦難や困難、それでも人々が生きていくために必要だった祈りや、つかの間の安らぎを思えば、民間仏のたたえるなんとも言い難い表情や風情を、現代社会の感覚につながるかたちで、よみ解いていく鍵となる気がした。信仰の対象である/あったものを造形のレベルで「鑑賞」をすることを美術館という装置は促すのであるが、それ以上に、かつてこれらをかたちづくり、まなざし、触れた人々の存在が穏やかに照らし出される展覧会であったといえる。なお本展はその後、龍谷ミュージアム(2023年9月16日~ 11月19日)と東京ステーションギャラリー(12月2日〜2024年2月12日)に巡回。

展覧会「自治とバケツと、さいかちの実-エピソードでたぐる追廻住宅-」(せんだいメディアテーク/11月3日~12月24日)