全国の美大図書館の司書から届いた選書で構成される「美大図書館の書架をのぞく」シリーズ。アートをもっと知りたい、アートも本も好きな読者に向けた新連載の第2回目は、東京・小平にある武蔵野美術大学にフォーカスする。
1929年に創立された武蔵野美術大学は、「人格的にも優れた美術・デザインを中心とする造形各分野の専門家養成」という教育理念を持ち続けてきた東京の美術大学。現在は鷹の台と市ヶ谷(2019年4月開設)にキャンパスを構え、創造活動のサポートと地域・社会に広く開かれた場となることを目指している。
そのメインキャンパスである鷹の台に位置する同大学図書館は、美術館と一体の「美術館・図書館」である点が特徴だ。美術館や図書館、民俗資料室、イメージライブラリーといった4つのセクションがあり、さまざまな資料群を相互に関連づけて利用することで、より充実した学修・研究ができるよう教育研究活動を支えている。
蔵書は、美術からデザイン、建築、映像分野を中心とした構成となっておりその蔵書数は30万冊以上。国内外の展覧会図録は国内有数規模の約5万冊を所蔵している。
そんな武蔵野美術大学の図書館にはどのような本があるのか、武蔵美の学生はどんな本を読んでいるのか。同館司書による選書をコメントとともにご紹介する
年間もっとも借りられている本
ジョセフ・アルバース『配色の設計 : 色の知覚と相互作用』
作家であり、バウハウスやイエール大学などで教鞭を執ったジョセフ・アルバースが1963年に著した名著。絵を描く実践者の視点から色彩、視覚、認識について理論立てて解説された基本書です。
貸出回数が多い理由として授業のテキストに指定されているということもありますが、それだけでなく、多様な学科や学年の学生に広く利用されており、出版後60年経ったいまも色あせることなく、美術、デザインを志す学生たちの教本となっています。
つくる人向けの本
ティモシー・オドネル『世界的な有名デザイナーたちのアイデア・スケッチ』
通常私たちは完成した作品を見ることしかできませんが、本書ではグラフィックデザイン、プロダクトデザイン、建築など各分野の第一線で活躍するデザイナーのスケッチブックを通じて、アイデアあふれるラフ案からはじまり、どのように発展、洗練させ完成に至ったのかのプロセスをたどることができます。
手描きのスケッチブックからは、デザイナーの生々しい息遣いを感じ取ることができます。見てたのしめるだけでなく、クリエイティビティを刺激する1冊です。
アート入門にぴったりな本
アメリア・アレナス『なぜ、これがアートなの?』
元ニューヨーク近代美術館の学芸員で、「対話型鑑賞」の第一人者であるアメリア・アレナスによる美術鑑賞の入門書。本書の出版を契機に、日本でも「対話型鑑賞」が注目されるようになりました。
決まった鑑賞の方法があるのではなく、作品によって鑑賞の仕方は異なり、作家や学芸員が一方的に作品解説をすることも退けます。国語の文章読解のように「作者は何を言おうとしているのか」とつい考えてしまいますが、アレナスは鑑賞者がどのように作品と向きあうかが重要だと説きます。本書を読めば作品を鑑賞する姿勢が変わります。