2019年に東京ステーションギャラリーにて開催された、サミュエル・イェスルン・デ・メスキータ(1868〜1944)の日本初回顧展「メスキータ展」。同展は、西宮市大谷記念美術館にも巡回している。
オランダ出身のメスキータは、ポルトガル系ユダヤ人の家庭に生まれ、1893年頃から作品の制作をスタートさせた。画家、版画家、そしてデザイナーとして活躍する傍ら、1902年からは美術学校の教師として多くの学生を指導。マウリッツ・エッシャーはその教え子なかでも特に大きな影響を受けたひとり。メスキータの作品に似通った版画を制作していたといい、教え子のなかでも特に大きな影響を受けている。
メスキータが多く手がけたのは、白黒のコントラストが特徴的な版画作品。ほかにも、自由に筆を走らせた膨大な数のドローイングや、幾何学的な構成を生かして雑誌の表紙や挿絵、染色のデザインを手がけるなど、多岐にわたる作品を残している。
ユダヤ人であったメスキータは、ナチスのオランダ侵攻によって強制収容所に送られ、1944年に家族とともに殺害される。しかし、教え子であったエッシャーとその友人たちは、メスキータのアトリエに残された作品を持ち帰って命がけで保管し、戦後はその名前を後世に残すために尽力した。
同展は、エッシャーたちが命がけで守ったメスキータの作品が一堂に会する、貴重な展覧会となっている。