超高齢化社会を迎える現代の日本では、誰もがいずれ、身体的・精神的な弱者になり、少数派になり得る。自身を普通であり多数派だと思っていた人々がそうした場面に直面するとき、どのような態度や生き方をしていくのか。同展は、障がいや加齢、そこから生まれる困難さと向き合い、またそこに注目しながら制作を続ける、11組の作家、ロボット研究者、さらにそれぞれの制作を支える人までを含めて紹介する。
同展が冒頭で紹介するのは、3人のアール・ブリュットの作家、藤岡祐機、渡邊義紘、松本寛庸。家族や周囲の人に支えられながら制作をつづけ、海外の美術館でも展示される注目作家だ。熊本で制作を続けるその日々を、多くの作品や、成長を見守ってきた人たちの声を交えながら展示する。
次に、国立ハンセン病療養所菊池恵楓園絵画クラブ金陽会の、大山清長、森繁美、木下今朝義の作品を紹介。故郷や家族と離れざるを得なかった悲しみや、偏見や差別と切り離せないそれぞれの人生のありようを、各作家の作品が静かに伝えている。
片山真理とソフィ・カルの作品からは、アーティストが見つめる身体について考えることができる。9歳で両足を切断した片山は、オブジェや立体、装飾を施した義足を使用したセルフポートレート作品を展示。ソフィ・カルは、目の不自由な人々と「美のイメージとは何か」についての対話を写真と言葉で表現した《盲目の人々》(1986、豊田市美術館蔵)を展示する。
豊橋技術科学大学のICD-LABで開発された、自分でゴミを拾えずに助けを求める《ゴミ箱ロボット》(2007〜)や、物語の続きを思い出せず人に尋ねてしまう《Talking-Bones》(2016〜)といった「弱いロボット」も紹介。あえて手間をかけるシステムデザインには、新たなコミュニケーションについてのヒントが眠っている。
また、熊本の「自撮りおばあちゃん」として知られる西本喜美子や、双極性障害と付き合いながら多彩な創作活動を行う坂口恭平も参加している。西本の「老い」から生まれる未来志向や、坂口の「自分が自分であるために」つくる行為は、見るものの自身への思索をより深めることになるだろう。