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REVIEW - 2020.4.27

過去に発せられた声はまた次の10年へ。石毛健太評 「MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影」

東京都現代美術館での、日本の若手アーティストを中心に紹介する企画展シリーズ「MOTアニュアル」。その15回目となる昨年末より開催された「Echo after Echo:仮の声、新しい影」は、コピーやサンプリング、コラージュの手法が共通する作家5組によるものであった。本展を、美術家でありインディペンデント・キュレーターとしても活動する石毛健太が論じる。

文=石毛健太

展示風景より、吉増剛造《大草稿(2019年8月1日-9月22日、roomキンカザンにて)》(2019) Photo by Kenji Morita
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2010年代の締め括りに

——Vaporwave、eccojamsについて

 ここ10年を振り返ると、美術に限らずあらゆる文化のなかで様々な潮流が生まれては混ざりを繰り返していたように思うが、間違いなく、語られるもののうちのひとつに挙げられるのはVaporwaveだろう。Vaporwaveは、2010年代初頭にミレニアル世代が中心となり、おもに80年代から90年代のポップスをサンプリングした楽曲を多数製作していった。現在では派生ジャンルがビルボードに並び、若年層を中心に広く普及するにまで至っている。

 この運動の祖として目されているのが、Oneohtrix Point Never(OPN)ことDaniel LopatinがChuck Person名義でリリースしたアルバム、『eccojams』(2010)である。このアルバムで用いられる手法こそ“echo jams(*1)”であり、曰く「好きな音楽だけを選び取る簡単なエクササイズ。セグメントをループアップし、スローダウンし、エコーを大量にかけ(中略)好きなものを聴きたいという欲求をなだめる(*2)」ためのアルバムであるらしい。

展示風景より、KOMAKUS《GHOST CUBE》(2019) Photo by Kenji Morita

——共通する手つき

 OPNのインタビューから分かるようにecho jamsとは、ミュージック・コンクレートから始まりシミュレーショニズムを経たサンプリング、アプロプリエーションの現在形といえるだろう。今回のMOTアニュアルでは、このecho jams的な制作の手つきが多く見られたように思う。本展の出展作家であるKOMAKUSは「音という現象は一度発生すると減衰はするが完全に消滅はしない。音は幽霊のように永遠に世界を彷徨し続ける。衝撃となり、やがて詩になり、そして解体され再び世界に溶けてゆく。(一部省略)(*3)」と述べている。ここで幽霊のように彷徨う音こそ「echo」であり、それを「jam」することは鈴木ヒラクの「発掘(*4)」、三宅砂織の「絵画的な像(*5)」にも相当するものではないだろうか(COPY TRAVELERSがいう「こっくりさん(*6)」は、他者を引き入れる彼らの制作スタイルを指す言葉であるが、霊媒がその際の合言葉として用いられる点においてKOMAKUSの「幽霊」との興味深い符号の一致ともとれるかもしれない)。

 世界中を彷徨う残響、あるいは幽霊を選び取り、発掘し、絵画的な像として浮かび上がらせ、もしくは合奏することがこの2010年代における表現方法の重要な一角に座しているといえるが、それこそVaporwaveが多く参照してきた「1980年代」を席巻したシミュレーショニズムと一体何が違っているのだろうか。​

展示風景より、鈴木ヒラク《Interexcavation》部分(2019) Photo by Kenji Morita
三宅砂織の展示風景 2019 Photo by Kenji Morita
THE COPY TRAVELERSの展示風景 2019 Photo by Kenji Morita

——更新されるアプロプリエーション、サンプリング

 ファッションレーベルであるPUGMENTは、会場を満たすUVライトと地下工場(プラント)という響きから非合法な匂いが漂うインスタレーションを発表。同作を通じて、参照するべき過去が焼け落ちたパラレルワールドで、衣服にプリントされた文字から歴史を復元しようと試みた。過去の流行が復興する「リバイバル」という言葉は、とりわけファッションの世界で耳にする。PUGMENTの作品では、本来の世界と平行に「意味の分からない言葉の羅列」がシルクスクリーンという複製技術によってコピーされ続ける。PUGMENTはサンプリングされた日本のファッションそのものの空虚さへの批判の裏で、歴史の復元という切実な物語を設定している。アプロプリエーションによって(対象を批判すると同時に)自らが触れ得なかった過去を想像し復元しようと試みているのだ。

 Vaporwaveの派生ジャンルのひとつ、Mall Softで知られるオランダのアーティスト、猫シCorp.はVaporwaveを「80年代から90年代にかけて生まれた世代の、ノスタルジックな過去への逃避でもある。(中略)子供の頃の想い出とか、当時の理想像にインスパイアされているから(*7)」と語った。その衝動、および逃避こそ今回のPUGMENTの作品を駆動させた力であり、冒頭の若年層が「ビルボードに並ぶ派生ジャンル」に聞き耽る理由ではないだろうか。

 前後に同じ名詞を用いる前置詞afterは継続反復を表している。「echo after echo」を訳すと、さしずめ「何度も繰り返すエコー」といったところだろうか。「echo after echo」は、邦題は「仮の声、新しい影」となっている。過去に発せられた声は完全に消滅することなくエコーとなって我々へ届き、そしてさらにそのエコーを我々が発していく。次の10年には一体どのような残響が聴こえているのだろうか。

展示風景より、PUGMENT《Purple Plant》(2019) Photo by Kenji Morita

*1ーーhttps://www.villagevoice.com/2010/07/06/brooklyns-noise-scene-catches-up-to-oneohtrix-point-never/
*2ーーhttps://www.vice.com/en_uk/article/wnydbx/oneohtrix-point-never-told-us-the-story-behind-every-single-track-on-garden-of-delete(コピートラベラーズの「コピササイズ」がオーバーラップしてくる)
*3ーー「MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影」公式カタログ、p.82
*4ーー同上、p.14
*5ーー同上、p.58
*6ーー同上、p.14
*7ーーhttps://tabi-labo.com/289006/vw-nekoshicorp