オリンピックとパラリンピックが開催される東京を文化の面から盛り上げようと始まったTokyo Tokyo FESTIVAL。その公募企画のひとつとして選ばれたのが、アートユニット「目」が企画したプロジェクト「まさゆめ」だ。
「塾の帰りに電車に乗って窓の景色を眺めていて、列車が林を抜けると街が広がり、街の空に大きな顔が月のように浮かんでいた」と荒神明香。14歳のときに見たその夢から着想し、公募から選んだ実在する顔を立体物のモチーフとし、それを東京の空に浮かべるという企画が7月の代々木に続き、風が吹き雨の滴る8月13日早朝の浅草で実現した。1時間半ほどの浮上を終えて、南川憲二は次のように語る。
「わからないことを追いかけてきたプロジェクトだとあらためて思いました。今日、膨らませたあとも宙に浮くのかどうかもわからなくて、2020年から延期になったことも予想してなかったことですし、今年になってからも緊急事態宣言もあってどうなるかわからなかった。先週はふたつも台風が来て、直前までわからなかったけど、今朝どうにか浮上させることができました」。
そもそも、荒神明香というひとりの人間が見た夢なのだから、どうなったら正解か、不正解なのかもわからない。その顔が誰なのか、それは圧倒的他者であり、同時に、誰でも自分の顔を応募できるのだから、それは「私」だったかもしれない。他者のことを考えると同時に、「私」と向き合うきっかけにもなりうるプロジェクトでもある。南川は続ける。
「わからないをわからないまま、『なぜ?』を『なぜ?』のまま、そこに浮かぶのは実在する人の顔だけど、『誰?』を『誰?』のまま存在させることが大事だと思っています。はっきりした理由がないことによって、見る人は主体的になると思っています。1964年の東京都はまったく違う状況で開催されて、人とも接触できない状況が生まれていて、どれもはっきりした理由がわかりません。その状況に対して自分自身で反応するしかなくて、一人ひとりが主体的にそれを体験して、想像して、あとからその意義をつくっていくしかないと思っています。後世にこの時代のことを聞かれて、自分たちで意義をつくっていけると思っているので、『まさゆめ』がそうやって主体的に想像して、意義を見出すきっかけになればと思っています」。
荒神は「謎の景色をつくることを多くの人たちと目指し、針に糸を通すような奇跡に立ち会えたと思っています」と高揚感を表す。「緊急事態宣言で外出を制限されて、ご飯を食べに行っちゃダメと言われてもレストランに行くことがあったり、そういう人を見て批判することもあったり、正解も不正解もないような状況だと思います。でも、正解も不正解もないなかにこそ可能性はあると思っていて、その余白に人を許す気持ちだったり、何かを創造する力、新たなことに挑戦する力が生まれてくるのではないかと思っています」。
「まさゆめ」で謎の景色を生み出した背景には、目のそんな思いがある。顔が浮かび、景色として空に溶け込む。日常の東京の風景と非日常とが溶け合った風景は、ただ「見る」個と、その真っ白な状態から生まれてくるイメージの愛おしさを感じさせてくれる。