新型コロナウイルスで大きなダメージを受けている文化芸術分野。伝統文化から現代美術まで、多くのアーティストが拠点を置く京都市でも、その対策は喫緊の課題として位置づけられてきた。
京都市は3月に京都芸術センターと休校中の子供向けコンテンツ「おうちでアート」を立ち上げ。4月には当初の予算を組み換えるかたちで補正予算を計上して「京都市文化芸術活動緊急奨励金」を創設し、寄付も加えることで1011件の文化芸術活動に対して総額3億円の支援を行った。
また5月には支援ニーズの実態を調査するため、「京都の芸術家等の活動状況に関するアンケート」を実施。その結果、新型コロナウイルスによる公演中止などによる経済損失は、個人(合計)が8億9000万円、団体・事業所(合計)が8億7000万円(いずれも2月~8月)にのぼることが判明した。
こうした背景を踏まえて実施されているのが、今回のふるさと納税型クラウドファンディング(ガバメントクラウドファンディング)だ。
このクラウドファンディングは、アーティストから新たなモデルとなり得る意欲的なプロジェクトを募集するものと、民間の文化拠点の参画を募り運営を支援する2本立ての企画。採択されたプロジェクトに対して京都市が実施するふるさと納税型クラウドファンディングにより寄付を募り、集まった寄付金と同額を京都市が上乗せして交付するというものだ。クラウドファンディング大手のREADYFORと協定を締結し、アーティスト支援では956万円を、文化拠点支援では1000万円を目標にファンディングを行っている(〜11月13日)。
全国的に見ても、ふるさと納税とクラウドファンディングを組み合わせて文化支援をするという動きは珍しい。その背景にはどのような思いがあったのか? 今回の企画を担当している京都市役所の倉谷誠(文化市民局文化芸術都市推進室文化芸術企画課課長補佐)に話を聞いた。
「コロナ禍においては、アーティストや文化拠点が被災している状況だといえます。京都市では、自治体として直接実態調査を行い、当事者の声を聞きました。意見をいただいた以上、それに応えるアクションを起こさなければいけません」。
実態調査では、必要とされる支援として「損失の補填」が個人・団体ともにもっとも多い回答となった。いっぽうで、「活動の再開に向けた事業資金支援」「文化芸術活動を生かした機会・場づくり」「オンライン展開のための支援」といった回答の比率も高い結果となっている。
「調査では損失補填を望む声が一番大きかったですが、活動再開に向けた場や資金支援などを求める前向きな意見もたくさん寄せられました。この状況下で、皆さんがすでに次の展開を見据えておられる。このニーズには応えられるんじゃないかと。そこで、アーティストを支援する『挑戦サポート交付金』と、スペースを支援する『発表・鑑賞拠点継続支援金』を設計しました」。
京都市では、昨年初めてふるさと納税型のクラウドファンディングによって資金を募り、若手アーティストの海外アートフェア出展を実現した経緯がある。これが市長を含めた庁内で認知されたことも、今回のガバメントクラウドファンディング実施につながっているという。
「せっかくできたこの仕組みを、なんとか再び応用できないか。ふるさと納税型なので、寄付者は控除も受けられます。そうしたメリットを活かしたアーティストと文化拠点の支援は何か、実現する方法を考えました」。
通常、クラウドファンディングではアーティストなどの具体的なプロジェクトに対して支援を行うことが多い。しかし今回の試みはそれとは異なる。京都市が様々なジャンルにまたがるアーティストやスペースを支援するための資金を集める、というモデルだ。
「多様なジャンルに対して一気に支援ができる仕組みであり、一人でクラウドファンディングを実施することが難しい方も参画しやすい。また、全国に呼びかけていくことで、新しいファンを生み出すことができるんじゃないかという期待もあります。今回の発表・鑑賞拠点継続支援金では、返礼品として『支援証』をお渡しするのですが、それを持って参画施設に行くことで、様々なサービスが受けられる仕組みです。これを使って、例えば現代美術が好きな方が、能楽堂や歌舞練場などにも足を運ぶようになっていただければ、結果的には継続的なサポートにつながる。またこのファンディングをきっかけに、施設間の横のネットワークが強化されれば、今後もし同じような危機が来たときにも、うまく連携して対策できるかもしれません」。
クラウドファンディングをすることで、通常の予算では実施できない事業が実現可能となる。しかし、「民間から資金調達できるのであれば行政予算は削減してもよい」という考えが生まれる懸念があるのも事実だ。
「なんでもかんでもクラウドファンディングで調達する、というのは違うと思います。支援の輪を広げていくためには、その中心にきちんとした“想い”が必要です。しかも、ふるさと納税は税控除のメリットがあるので、普通にクラウドファンディングをされる方と同じことをするのではなく、行政目的を明確に持たなければなりません。逆に、文化支援事業には民意が集まるんだ、ということをクラウドファンディングを通じて示していければ、社会的ニーズの高さの証明として受け止めることができ、予算増へとつながる可能性もあるのではないでしょうか。今回の企画を成功させることで、他の自治体の参考事例になればと思っています」。
京都市としては、今後もガバメントクラウドファンディングを積極的に活用していきたい考えだという。
「このコロナ禍を通じて、機会や場所が担保されていれば、アーティストは様々な工夫をして表現する力があるんだということを実感しました。だから自治体としては、その活動環境を守り、整えることが重要です。そのため必要であればクラウドファンディングを活用したいですし、ふるさと納税の選択肢のひとつとして文化芸術支援が位置づけられるようになれば理想的だと思います」。