特定の文化や既存の美術、流行、教育などに影響されず、ひたすら自由に表現活動を行っているアーティストたちの作品を紹介する特別展「あるがままのアート −人知れず表現し続ける者たち−」が、7月23日に東京藝術大学大学美術館でスタートした。
本展は、東京藝術大学とNHKの共同企画によるもの。会場では、それぞれ独自の世界を表現し続けるアーティストたちによる約200点の作品とともに、NHKワールド・Eテレで放送中のドキュメンタリー番組『no art, no life』や2017年から放送を続けている『人知れず表現し続ける者たち』の映像より、アーティストたちの制作の様子や日々の生活も紹介されている。
また会場には、インターネット経由で遠隔操作ができる自動運転ロボットも登場。障害や距離、時間などの制約により、展覧会会場に直接訪れることができない人々を対象に、 オンライン上で会話を楽しみながら会場にいるロボットを自由に動かし作品を鑑賞できるロボ鑑賞会を実施している(スペシャルコンテンツサイトから要予約)。
会場入口では、小森谷章が糸を素材に制作した不思議な塊やアメーバのような立体作品が来場者を迎える。皮膚を剥いだ筋肉繊維のような本作は、生命の本質を直感的にとらえている。
架空の動物や人間と思われるシンボリックな陶芸オブジェを制作する澤田真一は、一連の奇怪な形態を持つ生き物をかたちづくった彫刻作品を発表。表面に無数の棘が覆われているこれらの作品は、原初的な人間や動物を思い起こさせるだろう。
大胆な筆使いが強く印象に残る川上建次は、独自の経験に基づいて制作した絵画作品を展示。《ザ・ブッチャー》(2011)や《ネコの逆襲》(2005)と題されたこれらの作品には、川上が子供時代に憧れたプロレスターのブッチャーや、捨てた毛のない猫、そして母親や友人、うさぎなど身近な人物・動物が登場している。
乳房、性器、はさみなどのモチーフを繰り返し描いてきた魲万里絵は、鮮やかな色彩を用いて、隅々まで描きこんだ作品を展示。緻密に構成されている作品には、緊張感とともに、呪術的な雰囲気すら漂わせる。
展示室2では、渡邊義紘の《折り葉の動物たち》(2003)に注目したい。渡邊の独自の技法から生まれた、枯葉を折った小さな立体作品は、ねずみ、犬、ゾウなどの野生動物や十二支の動物、そして恐竜などの動物を題材に制作。ディテールまで強調されたこの小さな世界をじっくりと覗き込んでほしい。
同じくディテールに注目したいのは、福井誠やCANKTLE(キャンクト)の作品だ。空想上の動物や生き物に無数の「目」が描かれていることは、福井の作品の大きな特徴。かつて幻聴と幻覚で悩んでいた福井は、見られているような感じが繰り返され、目が気になって仕方がなかったという。
いっぽう、CANKTLEは増殖していく有機的なかたちを画面に埋めつくす抽象絵画を制作。広がる波や蔓性の植物が延伸している画面には、黒い隙間や切り取られた部分があり、空虚を象徴している。
人間による創造力の豊かさや心の自由を示してくれる「あるがままのアート」。その多様性にあふれる世界を現場で目撃してほしい。