近年、イギリスのテートモダンやパリのパレ・ド・トーキョーで個展を開催し、ヴェネチア・ビエンナーレなどの国際展にも多数参加してきたアーティスト、フィリップ・パレーノ。その日本における初の美術館個展「オブジェが語りはじめると」が、東京・神宮前のワタリウム美術館で開幕した。
フィリップ・パレーノは1964年アルジェリア生まれ、パリ在住。自らの展覧会を、一連の出来事が展開する「台本のある空間」と表現するアーティストだ。本展では、このパレーノが1994年から2006年にかけて制作した作品(オブジェ)が再構成されて並ぶ。
例えば、95年に初めて制作された氷でできた《リアリティー・パークの雪だるま》。本作は、ヤン・フートがキュレーションした青山の街が舞台となった展覧会「水の波紋」のためにつくられた作品だ。
当時原宿にあったキリンビール本社の中庭でくつろぐビジネスマンたちにインスピレーションを受けたというパレーノ。祝いの場を象徴するような氷の彫刻をその庭に設置し、日常に祝祭感をもたらすことを試みた。本展ではこの作品が24年ぶりに再現される。
97年からスタートした「吹き出し」シリーズは、その名の通りマンガの吹き出しのかたちをしたバルーンの作品だ。同作は労働組合のデモのために制作されたもので、統一されたスローガンではなく、デモに参加する個々人がそれぞれの意見をそこに書く、という構想があったという。「吹き出し」シリーズには十数種類のカラーバリエーションがあり、会場ではこの白バージョンが展示室の宙に浮かぶ。
2006年に始まった「マーキー」シリーズは、これまで50以上制作されたパレーノの代表的な作品。マーキーとは、劇場などのエントランスで上演タイトルや役者名を表示するものだが、パレーノのマーキーに文字はなく、激しい明滅を繰り返す。
これらの作品に見られるように、パレーノは同じシリーズを繰り返し制作してきた。「すべての作品は『モチーフ』なので、再利用されるのです」とパレーノは語る。時間と場所を変え、発展していく作品たち。これらが共鳴しあうのが、本展の大きな特徴だ。
作品は、太陽光や風向・風速、気圧などの外部環境に反応するほか、ほかの作品が発する音や光などとも呼応し、影響を与えあう。こうして作品がシンクロナイズすることで、「展覧会」というひとつの空間が創出される。これが本展タイトル「オブジェが語りはじめると」に込められた意図だ。パレーノはこの空間の鑑賞方法について、次のように話している。
「小説を読むように、自分の好きなように好きなものを見つけていく。何をどう理解するかは自分次第です。たまたまそこにあるものを見つけること。アーティストが鑑賞者を権力で縛ることはありません。自由に選び、自由に空間の中を浮遊してもらいたいですね」。