民衆の用いる日常品の美に着目した柳宗悦(1889〜1961)によって1925年に名付けられた、無名の職人たちによる民衆的工芸「民藝」。民藝の特徴でもある風土や風習を生かしたものづくりは、世代を超えて受け継がれていくなかで、素材、色、工程、用途、かたちなどの独自性が際立ち、革新的で衝動的な、枠にとらわれない創意工夫へと発展していった。
本展では、プロダクトデザイナーであり日本民藝館館長を務める深澤直人が、同館の所蔵品を中心に新旧様々な民藝を展示するというものだ。
柳がなぜ日本民藝館を設立したのか、その意図が書かれたテキストと、深澤による「無垢なものづくりの態度にくぎ付けになる」と記されたメッセージが並ぶロビー。そしてギャラリー1には、中国・宋時代のシンプルな器に魅せられた深澤が、館長になる以前より収集しはじめたという骨董品が集結。真贋を問わず、日常の食卓で使用しているという品々も揃う。
またここでは、音楽家で映像作家の岡本憲昭が、民藝作家のもとを訪れた映像も上映。「ものの背景にある人を見せることで、奥行きのある鑑賞体験ができるのではないかと思いました」と岡本は話す。
そしてギャラリー2では、深澤が直感にしたがって分類したという日本民藝館の所蔵品が18のケースの中に並ぶ。これらを分類するとき、深澤の頭に浮かんだという言葉をそれぞれのブースに大きく書かれているため、こちらにも注目してほしい。
またこのエリアでは、大矢真梨子が日本民藝館をとらえた写真作品や、カナダ人映像作家のマーティ・グロスが民藝をテーマに撮影したフィルム《日用品をつくる》を修復、デジタル化した映像も上映されている。
「日本民藝館は柳宗悦の美学の証」と話す深澤。柳と陶芸家の濱田庄司、河井寛次郎が肩を並べる写真が飾られた部屋では、日本民藝館を紹介するアーカイヴ写真を紹介。柳宗悦が晩年の思いを綴った書「心偈(こころうた)」も展示される。
また、出口のロビーでは、各地に存在する現代のつくり手によって制作された作品や雑誌『民藝』のバックナンバーなどを展示。これまでに受け継がれてきた民藝のあり方を見ることができる。
「民藝を通して生の感動を感じてほしい。そして、柳が仲間とともにわいわいと作品を収集し、“すごい”と言い合っていた世界観を再現したい」と語った深澤。友人・知人と連れ立って、感想を述べながら鑑賞するのをおすすめしたい展覧会だ。